纓、させる、と言って私をつれ出しました。それから彼等はむりやりに私をボートに乗せてしまいました。一リーグばかり漕いで行くと、私を浅瀬におろしました。
「一たいこゝはどこの国なのか、それだけは教えてください。」
と私は頼みました。しかし、彼等もそこがどこなのか全然知らないのでした。
「満潮にさらわれるといけないから早く行け。」
と言いながら、彼等はボートを漕いで行きました。
こうして、私はたった一人で取り残されました。仕方なしに、歩いて行くと、間もなく陸に着きました。そこで、しばらく堤に腰をおろして休みながら、どうしたらいゝものか考えました。少し元気を取り戻したので、また奥の方へ歩きだしました。私は誰か蛮人にでも出会ったら、さっそく、腕環《うでわ》やガラス環などをやって、生命だけは助けてもらおうと思っていました。
あたりを見わたすと、並木がいくすじもあって、草がぼう/\と生え、ところ/″\にからす[#「からす」に傍点]麦の畑があります。私はもしか蛮人に不意打ちに毒矢でも射かけられたら大へんだと思ったので、あたりに充分眼をくばりながら歩きました。やがて、道らしいところに出てみると、人の足跡や牛の足跡や、それからたくさんの馬の足跡がついていました。
ふと、私は畑の中に、何か五六匹の動物がいるのを見つけました。気がつくと、木の上にも一二匹いるのです。それはなんともいえない、いやらしい恰好なので、私はちょっと驚きました。そこで、私は叢《くさむら》の方へ身をかゞめて、しばらく様子をうかゞっていました。
そのうちに、彼等の二三匹が近くへやって来たので、私ははっきり、その姿を見ることができました。この猿のような動物は、頭と胸に濃い毛がモジャ/\生えています。背中から足の方も毛が生えていますが、そのほかは毛がないので、黄褐色の肌がむき出しになっています。それに、この動物は尻尾を持っていません。それから、前足にも後足にも、長い丈夫な爪が生えていて、爪の先は鈎形《かぎがた》に尖っています。彼等は高い木にも、まるでりす[#「りす」に傍点]のように身軽によじのぼります。それからとき/″\、軽く跳んだり、はねたりします。
私もずいぶん旅行はしましたが、まだ、これほど不快な、いやらしい動物は、見たことがありません。見ていると、なんだか胸がムカ/\してきました。
私は叢から立ち上っ
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