オて聞かせました。それから、あの国で集めた珍しい品を見せてやりました。王の髯で作った櫛や、王妃の親指の爪を台にして作った櫛や、一フートもある縫針や、地蜂の針や、王妃の金の指輪や、そのほか、いろ/\のものを取り出して見せてやりました。
 この船はトンキンに行って、いまイギリスへ帰る途中なのでした。航海は無事にすゝみ、一七〇六年六月三日に故国の港に戻りました。そこで、私は船長に別れを告げると、家の方へ向いました。
 途々、小さな家や、木や、家畜や、人間などを見ると、なにかリリパットへでも来たような気がします。行き会う人ごとに、なんだか踏みつけそうな気がして、私は、
「退け! 退け。」
 とどなりつけました。
 私の家へ帰ってみると、召使の一人が戸を開けてくれましたが、私はなんだか頭をぶつけそうな気がして、身体をかゞめて入りました。妻が飛んでやって来ましたが、私は彼女の膝より低くかゞんでしまいました。娘もそばへやって来ましたが、なにしろ長い間、大きなものばかり見なれた眼には、ヒョイと片手で娘をつかんで持ち上げたいような気がしました。召使や友人たちも、みんな私には小人のように思えるのでした。こういう有様ですから、はじめ人々は、私を気が違ったものと思いました。しかし間もなく、私もこゝに馴れて、家族とも友人とも、お互にわかり合うことができました。
[#改丁]




  第三、飛島(ラピュタ)




     1 変てこな人たち

 私が家に戻ると間もなく、ある日、『ホープウェル号』の船長が訪ねて来ました。それからたび/\彼はやって来るようになりましたが、いろ/\話し合っているうちに、私はまた、船に乗ってみたくなったのです。これまで私はずいぶん苦しい目にも会いましたが、それでも、まだ海へ出て外国を見たいという気持が強かったのです。
 そこで、私は一七〇六年八月五日に出帆し、翌年の四月十一日にフォート・セン・ジョージ(インドの港)に着きました。それから、トンキンに行ったのですが、こゝで、私は船長と別れて、別の船に乗り、十四人の船員をつれて出帆しました。
 出帆して三日もたゝないうちに、暴風雨に会い、船は北へ東へと、流されていました。その後、天気がよくなったかと思うと、私たちの船は二隻の海賊船に見つかり、たちまち追いつかれてしまいました。
 海賊どもは、両方の船から、一せいに乗り
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