閧ヘ、頑として許されないのでした。

     5 鷲にさらわれて

 私は、いつかは自由の身になりたい、という気持を、いつも持っていました。しかし、どうしたら自由になれるのか、それはまるでわかりませんでした。私にできそうな工夫はてんで見つからないのです。この国の海岸に吹きつけられた船は、後にも前にも、私の乗って来た船のほかに、誰も見たことはありません。しかし国王は、もし万一またほかの船が現れたら、すぐ海岸へ引っ張って来て、船長や乗客を手押車に乗せてつれて来るようにと、言い渡されていました。
 国王は、私に私と同じ大きさの女を妻にさせて、私たちの子供をふやしてみたい、と熱心に望まれていました。しかし私は、馴れたカナリヤのように籠の中で飼われたり、国中の貴族たちの慰みに売られるために、子供をつくるくらいなら、そんな恥かしい目に会うよりか、死んだ方がましだと思っていました。それに、国に残してきた家庭のことも忘れることができませんでした。もう一度、気らくに話のできる人間の中に帰り、街や野を歩くときも、蛙や犬の子みたいに踏みつぶされる心配なしに歩きたかったのです。しかし私は、たま/\思いがけないことから、全くうまく、こゝの国を離れることができたのです。それを次にお話しいたしましょう。
 それは私がこの国へ来て二年が過ぎ、ちょうど三年目のはじめ頃のことでした。グラムダルクリッチと私は、国王と王妃のお供をして、南の海岸の方へ行きました。私はいつものように、旅行用の箱に入れられていました。ハンモックを天井の四隅から絹糸で吊し、旅行中はよくこれで眠ることにしました。
 いよ/\海岸に着くと、国王はその海岸からあまり遠くないところにある離宮で数日間、お過しになることになりました。グラムダルクリッチも私も、へと/\に疲れていました。私も少し風邪をひいていましたが、グラムダルクリッチは非常に加減が悪いので、部屋で休んでいなければならなかったのです。私はなんとかして海へ行ってみたいと思いました。海へ行けば、この国から逃げ出す工夫が見つかるかもしれません。そこで、私は身体工合の悪いことを訴えて、ひとつ海岸へ行っていゝ空気が吸いたいのですが、行かせてください、と頼みました。そして、私と一しょに侍童がついて行ってくれることになりました。しかし、グラムダルクリッチは、私が海へ行くのを喜びませんでし
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