を二枚持っているから、一枚節ちゃんに上げよう、白々とした肌が寒気だった。
寝転ろんで、天井を睨んでいた恭ちゃんが、此頃つくった詩だと云って、それを大きい声で朗読してくれた。
激しい飛び散るような、その詩を聞いていると、私一人が飢えるとか飢えないとかの問題が、まるで子供の一文菓子のようにロマンチックで、感傷的《センチメンタル》で、私は私の食慾を嘲笑したくなった。
正しく盗む事も不道徳ではないと思えた。
帰えって今夜はいゝものを書こう。コオフン[#「コオフン」に傍点]しながら、楽しみに夜風のリンリンした町へ出た。
[#ここから2字下げ]
星がラッパを吹いている
突きさしたら血が吹きこぼれそうだ
破れ靴のように捨てられた白いベンチの上に
私はまるで淫売婦のような姿体で
無数の星の冷たさを愛している
朝になれば
あんな|空の花《ほし》は消えてしまうじゃないか
誰でもいゝ!
思想も哲学もけいべつ[#「けいべつ」に傍点]してしまった
白いベンチの女の上に
臭い接吻でも浴びせてくれ
一つの現実は
しばし飢えを満たしてくれますからね。
[#ここで字下げ終わり]
家に帰える事が、むしょうに厭になった。
人間の春秋《くらし》とは、かくまでも佗しいものか! ベンチに下駄をぶらさげたまゝ転がると、星があんまりまともに見えすぎる。
星になった女!
星から生れた女!
頭がはっきりする事は、風が筒抜けで、馬鹿のように悲しくなる。
夜更け。馬に追われた夢を見る。
隣室の××頭痛し。
二月×日
朝から雪混りの雨。
寝床で当にもならない原稿を書いていると、十子遊びに来る。
「私どこへも行く所なくなったのよ、二三日泊めてくれない?」
羽根のもげたこおろぎ[#「こおろぎ」に傍点]のような彼女の姿体から、押花のような匂いをかいだ。
「お米も何もないのよ、それでよかったら何日でも泊っていらっしゃい。」
「カフェーの客って、みんなジユウ[#「ジユウ」に傍点]ね、××と鼻ばかり赤かくしていて、真実なんて爪の垢ほどもありゃアしないんだから……。」
「カフェーの客でなくたって、いま時は、物々交換でなくちゃ……せち辛いのよ。」
「あんなとこで働くの、体より神経の方が先に参いっちゃうわね。」
十子は、帯を昆布巻きのようにクルクル巻くと、枕のかわりにして、私の裾に足を延ばして蒲団へもぐ
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