てるって云って下さい。」
 八重ちゃんが乱暴に階下へ降りて行くと、漠々とした当のない、痛い痛い気持ちが、ふくらがって、いっそ死んでしもうたなら[#「いっそ死んでしもうたなら」に傍点]と唄い出したくなる。
 メフィストフェレスがそろそろ踊り出したぞ! 昔おえらいルナチャルスキイとなん申します方が、云ってござる。
 ――生活とは何ぞや? 生ける有機体とは何ぞや? ルナチャルスキイならずとも、生活とは何ぞや! 生ける有機体とは何ぞや! 落ちたるマグダラのマリヤ! ワッハ ワッハ。
 死ぬんだ!
 死ぬんだ!
 自己保存の能力を叩きこわしてしまうのだ。私は頭の下に両手を入れると、死ぬる空想をした。毒薬を呑む空想をした。
「お女郎買いに行くより、お前が好きになった。」何と人生とはくだらなく[#「くだらなく」に傍点]朗らかな事であろう――。

 どうせ故郷もない私だ、だが一人のお母さんの事を思うと、切なくなる。泥棒になってしまおうかしら、女馬賊になってしまおうかしら……。別れた男達の顔が熱い瞼に押して来る。
「オイ! ゆみちゃん、女給が足りない事よく知ってんだろう。少々位は我慢して階下へ降りとくれよ。」お上さんは声をとがらして、梯子段を上って来る。
 あゝ何もかも、一切合財が煙だ。砂だ、泥だ。私はエプロンの紐を締めなおすと、陽気に唄をくゝみながら、海底のような階下の雑音《おと》へ流れて行った。

 七月×日
 朝から雨。
 造ったばかりのコートを貸してやった女は、とうとう帰って来なかった。一夜の足留りと、コートを借りて、蛾のように女は他の足留りへ行ってしまった。
「あんた人がいゝのよ、昔から人を見れば泥棒と思えって言葉があるじゃないの。」
 八重ちゃんが、白いくるぶし[#「くるぶし」に傍点]を掻きながら私を嘲笑っている。
「ヘエ! そんな言葉《あれ》があったのかね。じゃ私も八重ちゃんの洋傘《パラソル》でも盗んでドロンしちゃおうかなア。」
 私がこう言うと、寝ころんでいた、由ちゃんが、「世の中が泥棒ばかりだったら痛快だわ……。」
 由ちゃんは十九、サガレンで生れたのだと云って白い肌が自慢だった。八重ちゃんが肌を抜いでいるかば[#「かば」に傍点]色の地に、窓ガラスの青い雨の影が、キラキラ写っている。煙草のけむり、女の呆然《けむり》。
「人間ってつまらないわね。」
「でも木の方がよっ
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