やうに言ひつけた。紙の焼ける匂ひを消す為に、きんは薄く切つたチーズの一切れを火にくべた。「わァ、何焼いてるの」厠から戻つて来た田部が女中の豊かな肩に手をかけて襖からのぞき込んだ。「チーズを焼いて食べたらどンな味かと思つて、火箸でつまんだら火におつことしちまつたのよ」白い煙の中に、まっすぐな黒い煙がすつと立ちのぼつてゐる。電気の円い硝子笠が、雲の中に浮いた月のやうに見えた。あぶらの焼ける匂ひが鼻につく。きんは、煙にむせて、四囲の障子や襖を荒々しく開けてまはつた。[#地から1字上げ](「別冊文芸春秋」昭和23[#「23」は縦中横]年11[#「11」は縦中横]月号)
底本:「短篇小説名作選」現代企画室
1981(昭和56)年4月15日第1刷発行
1984(昭和59)年3月15日第2刷
※「ヽ」と「ゝ」、「ア」と「ァ」の混用、促音が「っ」になっている箇所、「都合つかないかねえ。 店を担保に」の全角スペースは底本通りにしました。
入力:土屋隆
校正:小林繁雄
2004年11月16日作成
青空文庫作成ファイル:
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