しきりにすすめましたので、鶴の親子は涙ぐんでしまいました。たったこの間までは、みんなたべものをかくしあって、自分たちのことばかり考えていた鶴たちは、よるとさわるとたべもののけんかで、なかではおたがいにだましたり、きずつけあったりして、血なまぐさいことばかりで、鶴たちは、食べものの事といっしょに精神的な心配で、今日はたのしいという日は一日だってありませんでした。
みんな、がやがやと群をなして、弱いものをおびやかしては、少しのたべものもとりあげて強いものがいばっているのです。
鶴の子供たちも、自然に気持がすさんで、おとなの悪いところばかりまねるようになって、きたない言葉づかいで、けんかばかりしていたのです。あんまりききんがつづいたので、みんな村をすてて行ってしまいましたけれど、いまはかえって、以前より平和になり、七羽の鶴は、どんなことがあっても、のぞみをすてないで、ここで元気に働いて暮しましょうと話しあいました。
鶴のお嫁さんの案内で、魚のたくさんあるところをみつけましたので、七羽の鶴はしっそな気持で、いつもたのしい食事をすることが出来ました。
ある夜、あんまり美しいお月夜で、金色の光が、こうこうとあたりをてらしていますので、足の悪い鶴は、また笛を吹きました。
三羽の子供の鶴はお月様へむかって、歌をうたいたくなりました。
「きれいなきれいなお月さまア。」
小さい鶴が歌いました。すると中の兄さんの鶴が、「生れた村がいちばんいい。」と歌いました。上の兄さんは、「きもちのいい夜だね。何を考えてもたのしいね。」と歌いました。
子供鶴のお母さんはのんびりとして、
「ほんとに、わたしたちはしあわせになったのね。お前たちががつがつしなくなっただけでもかえって来てよかった。乙さんも甲さんもみんなかえって来てくれるとにぎやかになっていいのにね。」
と申しました。
鶴のお父さんは、一ぷくたばこを吸いながら、足の悪い鶴の笛の音にききとれて[#「ききとれて」はママ]いました。笛の音色はピヨロピヨロと涼し気な音色をたてています。
「あら、何だか、にぎやかな羽音がしますよ、誰かかえって来たのでしょうか。」
やがて、金色の空から、一羽二羽、三羽四羽、村をすてていった鶴たちが笛の音色にさそわれてもどって来ました。
「誰もいばらないで、みんなでわけあって食べあう気持ならばかえっていらっしやい。」
足の悪い鶴が申しました。
かえって来た鶴たちはよろこんで涙を流しました。
それからは、みんなで働きに行って、みんな仲よくわけあって食べました。――にぎやかな美しい鶴の国はいまもどこかにあるのでしょうか‥‥。
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きれいなこころがいつもいい、
まずしくてもこころはゆたか、
みんなでわけあって、
みんなで働いて、
いつもきれいなこころで、
みんな愛しあってゆきましょう。
[#ここで字下げ終わり]
鶴の笛は、いつもそういってピヨロピヨロとやさしくなっていたのです。
底本:「林芙美子全集 第十五巻」文泉堂出版
1974(昭和52)年4月20日発行
入力:林 幸雄
校正:花田泰治郎
2005年6月27日作成
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