っていましたけれど、笛をひろってからは、笛の音色があんまりきれいなので、二人はとぼしい食べものに満足して、お話しをすることは、たのしかったおもい出話や、遠くに行った鶴たちが幸福であればいいという話ばかりになりました。
「ねえ、わたしは、笛の音色をきいていると、こんなみじめな年ばかりじゃなく、いまに、とても豊年のつづくいい年も来るような希望が出来て、すこしもがっかりしなくなりました。今日はすこし、ちょっと遠くまでお魚をさがして来ますから、時々、その笛を吹いて下さいね。」
お嫁さんの鶴がいいました。
「ああいとも、けがをしないように行っておいで。」
お嫁さんの鶴はすぐ飛び立って行きました。しばらくすると、小さい沼のところへ来ました。沼の上に時々水しぶきがしています。おや何だろうとねらいをつけて飛びおりると、いままで見たこともないたくさんの小魚が群をなしているところがありました。お嫁さんの鶴は胸がどきどきしてその魚をとりました。さっそく、おみやげをつくって笛の音色の方へ旅立ちますと、西の方から、子供の鶴を三羽もつれた夫婦の鶴にあいました。
「おやまア、随分久しぶりですね。どうしたンですか‥‥。」
お嫁さんの鶴がたずねますと、
「ええひどいめにあいましたよ。どこへ行ってもいいことはなく、とうとう、私の子供はふたりとも病気で死んでしまいました。どこか、いいところはないかと思って、方々さまよっているところへ、何ともいえないきれいな笛の音がするので、きっと、あの笛の鳴る方にはいいことがあるにちがいないと思って、やって来たのですよ。」
と申しました。
「まア、そんなに笛の音が遠くまできこえるのでしょうか。あれは、足の悪いうちの主人が吹いているのですよ。」
お嫁さんの鶴の案内で飛んでゆきますと、自分たちのみすてた村だったのでびっくりしました。お嫁さんの鶴は、笛の音色を長いあいだきいていましたので、心のなかがひろびろしていて、どんなに自分たちが困っていても、ほかのものにほどこしをするのは気持のいいものにおもうようになっていました。
さっそく、さっきとってきた魚を夕食に出して、旅づかれのした、おなかのすいている鶴たちに食べさせてやりました。
足の悪い鶴も、お嫁さん鶴も、ほんの少したべたきりで、
「遠慮しないでおあがりなさい。たくさん食べて元気を出して行って下さい。」
と、
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