味噌汁や御飯を食べるのは、どうしても冬の方が多い。
 これからはトマトも出《で》さかる。トマトはビクトリアと云う桃色なのをパンにはさむと美味《うま》い。トマトをパンに挟む時は、パンの内側にピーナツバタを塗って召し上れ。美味きこと天上に登る心地。そのほか、つくだ煮の類も、パンのつけ合せになかなかおつなものです。マアマレイドは、たいてい自分の家でつくる。
 私は缶詰《かんづめ》くさいマアマレイドをあまり好かないので、買うときは瓶詰《びんづ》めを求めるようにしている。ありがたいことに、このごろ、酢漬けの胡瓜も、日本でうまく出来るようになったが、あれに辛子をちょっとつけて、パンをむしりながら砂糖のふんだんにはいった紅茶をすするのも美味い。そのほか私の発明でうまいと思ったものに、パセリの揚《あ》げたのをパンに挟むのや、大根の芽立てを摘《つ》んだつみな、夏の朝々百姓が売りに来るあれを、青々と茹《ゆ》でピーナツバタに和《あ》えてパンに挟む。御実験あれ。なかなかうまいものです。――梅雨時《つゆどき》の朝飯は、何と云っても、口の切れるような熱いコオフィと、トオストが美味のような気がします。
 朝々、バタだけはふんだんに召上れ。皮膚《ひふ》のつやがたいへんよくなります。外国では、バタをつかうこと日本の醤油の如くです。バタをけちけちしてる食卓はあまり好きません。――日曜日の朝などは、サアジンとトマトちしゃのみじんにしたのなどパンにもよく、御飯にもいい。
 朝々のお茶の類は、うんとギンミして、よきものを愉しむ舌を持ちたいものだ。茶の淹れかたも飯の焚きかたといっしょで心意気一つなり。コオフィにはなまぐさものの類、魚、野菜何でも似合わないような気がして、たいていの、ややこしい食事の時は紅茶にしている。但し、肉類をたべたあとの、つまり食後のコオフィはうまいものです。食事と茶と添う時は、まず紅茶の方だろうと思うけれど、如何《いかが》でしょう――。

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 このあいだ高見順さんの「霙降る背景」と云う小説を読んでいたら、郊外の待合《まちあい》で朝御飯を食べるところが描写してあった。なかなか達者な筆つきで、如何《いか》にも安待合の朝御飯がよく出ていたが、女主人公が、御飯と茶の味でその家の料理のうまいまずいがわかると云うところ、私もこれには同感だった。
 私は方々《ほうぼう》旅をするので、旅の
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