》えて仕方がない。この世の中に奇蹟《きせき》はないのだ。皇族に生れて来なかったのが身のあやまり……。私は総理大臣にラブレターを出してみようかと思う。夜、ゴオゴリの鼻を読む。鼻が外套《がいとう》を着てさすらってゆく。そして、しょうことなく、だらしなく読者に媚《こび》を呈して、嘘をとりまぜた考えが虚空に消えてゆく。
 苦しめば苦しむほど、生甲斐のある何かだ。吻《ほっ》とする人生を得たいために、時には厭なこともやりかねない。このままな無頓着ではいられない。私にだって、そんな馬鹿馬鹿しい程の時がめぐって来るのだろうか……。このまま何でもなく通りすぎる貧窮のつづきかな。金さえあれば、もっと、どうにかなるのか、浅はかな世の中だ。――その癖、何を考えているのか。自分で自分がさっぱり判らない。正直で誠実で、人情深くて、それが貧乏人のけち[#「けち」に傍点]な根性さね……。何もないから、せめて正直で、おずおずして、銭勘定ばかりしている。隣りの大学生は大正琴を弾きながら、親から金が送って来て、肉屋の女と恋をしている。結構な生れあわせだ。
 上月の夜に小菜《こな》の汁に米の飯、べんけいさんは理想が小さい。ねえ、それなのに、私はべんけいさんの理想も途方もないぜいたくに思ってます。他人さまとは縁も由縁《ゆかり》もないのよ。私は私こっきりの生きかた。五貫匁もある重い腿をぶらさげて、時には男の事も考える。誰かいいひとはいないかしら、せめて、十日も満足に食わせてくれる男はいないものかと考える。だって、ねえ、こんなに貧乏して、躯《からだ》じゅうをのみ[#「のみ」に傍点]に食わしているンじゃアやりきれない。全く、私は生れなきゃよかった部類の女なンだから……。私は馬と夫婦になったっていいと思う。全く邪魔っけな重たい躯なンて不用そのもの、鼻だけで歩きたい位のものだ。ゴオゴリもこんな気持ちで長ったらしい小説なんかでかきくどいたのに違いない。

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何時寝るともなく
静かに眠り夢をみる
ただ食べる夢男の夢
特別残酷な笑い事の夢
耳の奥で調子を取る慾
びいんびいんと弓を鳴らす
茶碗つぎの中国人の夢

走って行って追いかえされて
けろりとして烏《からす》のように啼く
太々しいくせに時には泣きたくなる
咬《か》み傷一つ誰にもつけた事のない
よぼよぼの鼠のくりごと
畸形《きけい》で、男と寝たがる意
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