のキジ猫
森閑と静もれる西片町
金魚屋のバッカン帽子が呟く
詩人もしゃがむ
円にうつす水鏡
雲に浮く金魚の合唱
生死のほどはいまもわからぬ
ただこの姿あるうちに召しませ
西洋洗濯のペンキ車
白い陶の表札と呼鈴
時間のとどまる一瞬の朝
この家々が澄まして悪を憎む
ペンキ車は後追う詩人
どこやらでうそ[#「うそ」に傍点]の鳴き声
世に叫ぶ何ものも持たざる詩人
開闢《かいびゃく》とは今日のことなり
昨日はもうすでに消え
あるは今日のみ今の現実
明日が来るのか……
明日があるのか詩人は知らぬ
[#ここで字下げ終わり]
(七月×日)
[#ここから2字下げ]
斑々《まだらまだら》に立つ斑々
人生の青さの彼方《かなた》
重く軽く生きる斑々
燈火によるかげろう
只ひきずられて生きる
忽然《こつぜん》と消えるも知らず
希望らしげな斑々の顔
悪念|怨恨《えんこん》その日暮し
どうせ死ぬ日があるまでは
ムイシュキン様の憤怒《ふんぬ》絶望。
よりにもよって暗い顔
楽しい月日の人生なぞとは
あわあわとたわけたことだ
辛抱強くよくも飽きずに
Mボタンをはずしたり閉めたり
閃《ひらめ》き吹きあげる焔《ほのお》の息
斑々の辛抱強さの厚顔
頻《しき》りと雷同する斑々
時々はあじさいの地位名誉
下碑が鍋尻を洗う容貌《きりょう》
軽く重く衝突する斑々
床の間には忠孝
欄間には洗心
壁間には欲張った風流
ああ私は下婢となって
毎日毎日鍋尻を洗うのだ
斑々の偽善!
[#ここで字下げ終わり]
自分が何故こんなところにいるのか判らない。只、何となく家庭らしさをあこがれて来たようなあいまいな気持ちばかり。五円のおてあてではどうにもならぬ。――旦那さまは大学の先生だと云う。何を教えているのかさっぱり判らない。英国へ行っていたけいれき[#「けいれき」に傍点]はあるのだそうだ。毎朝パン食。牛乳が一本。ひげをそって、水色裏の蝙蝠傘《こうもりがさ》を持って御出勤になる。大学までは、ほんの眼と鼻のところだのに、蝙蝠傘の装飾が入用なのだ。暑くても寒くても動じぬ人柄なり。歴史を語るのだそうだけれども、私は一度も講義を聞いたことはない。奥さんは年上で、もう五十位にはなっているのだろう。彫の深い面のような顔、表札の陶に似た濃化粧だ。奥さんの姪《めい》が一人。赤茶色の艶《つや》のない髪を耳かくしに結って鏡ばかり見ている
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