もならぬ。ぱっとした事はないのだろうか……。何かがバクハツするような事はないのでしょうかね、神様……。毛布が馬鹿に人間臭い。暗い戸外を、「別嬪《べっぴん》さん」と男がどこかの女を呼んでいる声がしている。今日は主人夫婦は子供を連れて成田さんにお参り。おかみさんのおふくろさんが留守番に来ている。コックの大さんと云う爺さんが、私達にいりめしをつくってくれている。
勝ちゃんが階下からウイスキーを盗んで来た。私製ジョニオーカア。暗がりで二人でウイスキーをビンの口から飲みあう。一丈位も躯がのびたような気がする。文明人のする事ではないでしょうけれど、まあ、この女達を哀れにおぼしめして下さい。私は酔うと鼻血の出るような勇ましい気になる。
*
(六月×日)
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肥満《ふと》った月が消えた
悪魔にさらわれて行った
帽子も脱がずにみんな空を見た。
指をなめる者
パイプを咥《くわ》えるもの
声を挙げる子供たち
暗い空に風が唸る。
咽喉笛《のどぶえ》に孤独の咳《せき》が鳴る
鍛冶屋《かじや》が火を燃やす
月は何処かへ消えて行った。
匙《さじ》のような霰《あられ》が降る
啀《いが》みあいが始まる。
賭《か》け金で月を探しに行く
何処かの煖炉《だんろ》に月が放り込まれた
人々はそう云って騒ぐ。
そうして、何時の間にか
人間どもは月も忘れて生きている。
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スチルネルの自我経。ヴォルテエルの哲学。ラブレエの恋文。みんな人生への断り状だ。生きていることが恥かしいのだ。労働は神聖なり、誰かがおだてて貧乏人にこんな美名をなすりつける。鼻もちもならぬほど、貧民を軽蔑《けいべつ》し、無学文盲をあなどりたい為《ため》に、いろんな規則ががんじがらめに製造される。貧民は生れながらの私生児のようなものに落ちこんで行く。
幸福の馬車は、いちはやくこうした徒輩の間を一目散に走り去ってゆく。みんな見送る。ただ、ぼんやりとわめき散らす。月が盗まれたような気がして来る。虚空に浮いている幸福な金貨のような月の光りは消えた。月さえも万人の所有物ではないのだ。――私は貴族は大嫌い。皮膚に弾力のない不具者だ。
今日も南天堂は酔いどれでいっぱい。辻潤《つじじゅん》の禿頭《はげあたま》に口紅がついている。浅草のオペラ館で、木村時子につけて貰った紅だと御自慢。集ま
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