に眠っている。昼過ぎになって野村さん戻って来る。
 母を引きあわせようとする間をすりぬけて、机へ向いて本を読み始める。母と私は台所の板の間に座蒲団を敷いて坐った。湯をわかしてうで玉子を四つにネーブルを二つ、机のそばへ持って行って、おみやげですよと云うと、只、ほしくないよッときつく云って、みむきもしない。私はかあっとして、うで玉子を男の頭にぶちつけてやりたい気になった。何と云うひねくれたひとであろうかとやりきれなくなって来る。まだこのひとは怒っているのだろうか……。このえこじな、がんこなところが私には不安なのだ。私の書きかけの詩の原稿がくしゃくしゃにまるめられて部屋のすみに放ってある。私はそれを拾ってしわ[#「しわ」に傍点]をのばしているうちに、何とも切なくなってきて、誰にもきこえないように泣いた。どうしたらいいのか自分でもわからない。母は息をころしたように台所の七輪のそばにうずくまっている。泣くだけ泣くと、すぐからりと気持ちが晴れて、私はもうどうでもいいと云う思いにつきあたって気が軽くなった。母がしょんぼりしたかっこうで、私を見るので、私はにゅっと舌を出してみせた。涙がこぼれぬ要心のために、舌を出していると、こめかみと鼻の芯《しん》がじいんと痛くなる。
 台所の土間へ降りて、縁の下にかくしてある風呂敷の中に、しわをのばした原稿をしまう。見られては悪いものばかりはいっている。長い間書きためた愚にもつかないものばかりだけれども、何となく捨てかねて持ち歩いている私の詩。これこそ一文にもならぬものだ。焼いてしまいたいと何度か思いながら、十年もたったさきへ行って、こんなこともあった、あんなこともあったと思うのも無駄ではないとも思える。
 どうにもやりきれないので、外出をする支度をする。何処と云って行くあてはないのだけれども、一応母を連れ出してよく話をしなければならぬ。私は粉炭《こなずみ》を火鉢の中に敷いて、火をこっぽりと埋めて、やかんをかけておいた。二つある玉子を母にもむいてやる。母は音もさせないで玉子をのみこむように食べた。
「一寸、そとへお母さんと出て来ます」
 と、机のそばへ行ったのだけれど、男は相変らずみむきもしない。二人で外へ出た時は、腹の底から溜息が出た。私は何度も深呼吸をした。私がそんなに厭《いや》な女なのだろうかと思う。まるで自信がなくなってしまう。ごみくずの
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