なになるのか見当がつかない。どうにかなるだろうと思ってもみる。朝から飯をたべていないので、躯《からだ》じゅうが凄《すご》んで来る。虎のようにのそのそと這いまわりたいような烈しい気持ちになる。
 部屋の中を綺麗《きれい》にかたづけて寝床を敷く。ここにも敷布のない寝床。寝巻きがないので裸で私はおやすみ。水へ飛びこむような冷たさ。こっぽりと着物を蒲団の上にかける。着物の匂いがする。時々、枕もとで鯉がはねる。夜更けの街道をトラックが地響きをたてて坂を降りて行く。

[#ここから2字下げ]
冒涜《ぼうとく》はおつつしみ下され
私には愚痴や不平もないのだ
ああ百方手をつくしても
このとおりのていたらく[#「ていたらく」に傍点]
神様も笑うておいでじゃ
折も折なれば
私はまた巡礼に出まする

時は満てり神の国は近づけり
汝《なんじ》ら悔い改めて福音を信ぜよ
ああ女猿飛佐助のいでたちにて
空を飛び火口を渡り
血しぶきをあげて私は闘う
福音は雷の音のようなものでしょうか
一寸おたずね申し上げまする
[#ここで字下げ終わり]

 どうにも空腹にたえられないので、私はまた冷い着物に手を通して、七輪《しちりん》に火を熾《おこ》す。湯をわかして、竹の皮についたひとなめの味噌を湯にといて飲む。シナそばが食べたくて仕方がない。十銭の金もないと云う事は奈落の底につきおちたも同じことだ。トントン葺《ぶ》きの屋根の上を、小石のようなものがぱらぱらと降っている。ここは丘の上の一軒家。変化《へんげ》が出ようともかまわぬ。鏡花《きょうか》もどきに池の鯉がさかんにはねている。味噌湯をすする私の頭には、さだめし大きな耳でも生えていよう……。狂人になりそうだ。どうにもならぬと思いながら、夜更けの道を、あのひとがあんぱんをいっぱいかかえてかえりそうな気がして来る。かすかにあしおとがするので、私ははだしで外へ出て見る。雪かと思うほど、四囲は月の光りで明るい。関節が痛いほど寒い。ぱったりと戸口で二人が逢えばどんなに嬉しかろう……。
 遠いあしおとは何処かで消えてしまった。硝子戸《ガラスど》を閉ざして、また七輪のそばに坐る。坐ってみたところで、寒いのだけれども、横になる気もしない。何か書いてみようと、机にむいてみるのだけれども膝小僧が破れるように寒くてどうにもならない。少し書きかけてやめる。かんぴょうでもいいから食べたい
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