「私は女学校の先生になりたいのよ」
ヨシツネさんは妙な顔をしていた。私も妙な気がした。何だか、罪を犯したようなやましい気になる。
夕方から雨。ヨシツネさんは馬鹿にていねいだ。プラトニックラブと云った顔が、急に中学生のように見えて来る。
澄さんの客に呼ばれて、随分酒をのまされた。少しも酔わない。客は帝大の学生ばかり。ヨシツネさんと同じ位だけれど、馬鹿に子供子供してみえる。
「このひとは、本ばかり読んでいるのよ」と、澄さんが云った。
「何の本を読んでいるンだ?」
ずんぐりした、小さい学生が私に杯をさしながら尋ねた。私は「猿飛佐助よ」と大きい声で云った。みんなわアっと笑った。猿飛佐助がどうしておかしいのか私には判らない。酔ったまぎれに、紺屋高尾《こんやたかお》を唸《うな》ってみせる。みんな驚いている。
学生とはそんなものだ。あんまり酔ったので、女中部屋へ引っこんだのだけれど、苦しくてもどしそうになる。ヨシツネさんがのぞきに来たのを幸い、洗面器を持って来て貰った。酢っぱいものがみんな出る。すべてを吐く。
「ヨシツネさん!」
「何だよ……」
「そこへつっ立ってないで、塩水でも持って来てよ」
ヨシツネさんはすぐ塩水をつくって来てくれた。帯をとくと、五十銭玉がばらばらと畳にこぼれる。
「無理して飲む奴はないよ」
「うん、プラトニックラブだから飲んだのよ。あんた、そう云ったじゃないの……」
ヨシツネさんが急にかがみこんで、私の背中をいつまでもなでてくれた。
*
(十二月×日)
火を燃やしたくなったので、から[#「から」に傍点]になった炭俵や、枯葉をあつめてどんど[#「どんど」に傍点]を燃やす。私はこうした条件のなかで生きる元気がない。少しもない。大切なものを探し出して燃やしてやりたくなる。部屋のなかへはいって、大切なものを探してみる。野村さんの詩の原稿を三枚ばかり持ち出して火の上にあぶってみる。焼けてしまえばこの詩は灰になるのだと思うと、憎さも憎しだけれども、何となく気おくれして、いけない事だと思い、またもとのところへしまう。
私は何も出来ない。勇気のない女になりさがってしまっている。今朝、私たちは命がけであらそった。そして、男はしたいだけの事をして街へ行ってしまった。あとかたづけをするのは私なのだ。障子は破れ、カーテンは引きちぎれ、皿も茶碗も
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