る。私はちっとも怖わがらないで、そばへ行って横になった。私は、なまめかしくさえしている。
眼がさめてから厭《いや》な気持ちだった。
寝床の中で詩を書く。
納豆売りのおばさんが通る。あわてて納豆売りのおばさんを二階から呼びとめて、階下へ降りてゆくと、雨あがりのせいか、ぱあっと石油色に道が光っている。まだあまり起きている家もない。雀だけが忙《せ》わしそうに石油色の道におりて遊んでいる。何処からか、鳩も来ている。栗の花が激しく匂う。
納豆に辛子をそえて貰う。
私はこのごろ、もう自分の事だけしか考えない。家族のある、あたたかい家庭と云うものは、何万里もさきの事だ。
こころのなかで、ひそかに、私は神様を憎悪する。こころやすく死んでしまいたいと唇《くち》にするような女がいる。それが私だ。本当に死にたいなんて考えないのだけれど、私はまるで、兎がひとねむりするみたいに、死にたいと云うことをこころやすく云ってみる。それで、何となく気が済むのだ。気が済むと云う事は一番金のかからない愉しみだ。
死ぬと云えば、すぐ哀しくなってきて、何となくやりきれなくなる。
何でも出来るような気がしてくる。勇気で頭が風船のようにふくらんで来る。
昼から万朝報に行く。
まだ係りのひとが来ていないと云うので、社の前の小さいミルクホールで牛乳を一杯飲む。人力車が行く。自動車が行く。自転車が行く。お昼なので、赤い塗りの箱を山のように肩にかついで、そばやが行く。かあっと照りつける往来を見ていると、肺が歌うなぞと云う詩を持ちあるいている自分が厭になって来た。誰も知らないところで、一人でもがいている必要はない。第一、大した駄作で、いまどき、肺のことなぞ誰も考えているものか……。空気を吸うことなぞどうでもいいのだ。
ああ、金さえあれば、千頁の詩集を出版してやりたい。友達もない、金もない、只、亀の子のように、のこのこ日向《ひなた》を歩きまわっている。まるで私は乞食のような哀れさだ。だれもめぐんでなんかくれない。洟《はな》もひっかけやしない。ああ、わっと云うような景色のなかからお札は降って来ないかな。千頁の詩集を出してやる! 題は男の骨、もっとむざんな題でもいい。
名もない女の詩なぞ買ってもらわなくてもいい。いまに千頁の詩集を出版しましょう。まるで仏壇のような金ピカ詩集! でこんでこんに塗りたくって、
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