に、由ちゃんが何か頬ばりながら二階へ上ってきた。新らしくきた女のひとにエプロンを貸してやる。妙にガサガサ荒れた手をしていた。
「私、一度世帯を持った事がありましてね。」
「…………」
「これから一生懸命働きますから、よろしくお願いいたします。」
「ここにいる人達は、皆同じことをして来た人達なんだから、皆同じようにしていりゃいいのよ。場銭《ばせん》が十五銭ね、それから、店のものはこわさないようになさい、三倍位には取られてしまうのよ、それから、この部屋で、お上さんも旦那も、女給もコックも一緒に寝るんだから、その荷物は棚へでもあげておおきなさい。」
「まあこんなせまいところにねるのですか。」
「ええそうなのよ。」
 階下へ降りると、例の男がよろよろ歩いて来て私にいった。
「どっか公休日に遊びに行きませんか!」
「公休日? ホッホホホホ私とどっかへ行くと、とても金がかかりますよ。」
 そうして私は帯を叩いて言ってやった。
「私赤ん坊がいるから当分駄目なんですよ。」

        *

(十二月×日)
「飯田がね、鏝《こて》でなぐったのよ……厭になってしまう……」
 飛びついて来て、まあよく来たわね、と云ってくれるのを楽しみにしていた私は、長い事待たされて、暗い路地の中からしょんぼり出て来たたい[#「たい」に傍点]子さんを見ると、不図《ふと》自動車や行李《こうり》や時ちゃんが何か非常に重荷になってきてしまって、来なければよかったんじゃないかと思えて来た。
「どうしましょうね、今さらあのカフエーに逆もどりも出来ないし、少し廻って来ましょうか、飯田さんも私に会うのはバツが悪いでしょうから……」
「ええ、ではそうしてね。」
 私は運転手の吉さんに行李をかついでもらうと、酒屋の裏口の薬局みたいな上りばなに行李を転がしてもらって、今度は軽々と、時ちゃんと二人で自動車に乗った。
「吉さん! 上野へ連れて行っておくれよ。」
 時ちゃんはぶざまな行李がなくなったので、陽気にはしゃぎながら私の両手を振った。
「大丈夫かしら、たい子さんって人、貴女の親友にしちゃあ、随分冷たい人ね、泊めてくれるかしら……」
「大丈夫よ、あの人はあんな人だから、気にかけないでもいいのよ、大船に乗ったつもりでいらっしゃい。」
 二人はお互に淋しさを噛み殺していた。
「何だか心細くなって来たわね。」
 時ちゃんは淋
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