へ仕事に出て行った。婆さんと、子供とお君さんと私と四人で卓子を囲んで御飯をたべる。
「随分せいせいするよ、おしめりはあるし、二人は出て行ったし。」
お婆さんがいかにもせいせいしたようにこんなことを云った。
(五月×日)
新宿の以前いた家へ行ってみた。お由さんだけがのこっていて古い女達は皆いなくなってしまっていた。新らしい女が随分ふえていて、お上さんは病気で二階に臥《ふ》せっていた。――又明日から私は新宿で働くのだ。まるで蓮沼《はすぬま》に落ちこんだように、ドロドロしている私である。いやな私なり、牛込《うしごめ》の男の下宿に寄ってみる。不在。本箱の上に、お母さんからの手紙が来ていた。男が開いてみたのか、開封してあった。養父の代筆で、――あれが肺病だって言って来たが本当か、一番おそろしい病気だから用心してくれ、たった一人のお前にうつると、皆がどんなに心配するかわからない、お母さんはとても心配して、この頃は金光《こんこう》様をしんじんしている、一度かえって来てはどうか、色々話もある。――まあ! 何と云う事だろう、そんなにまでしなくても別れているのに、古里の私の両親のもとへ、あの男は自分が病気だからって云ってやったのかしら……よけいなおせっかいだと思った。宿の女中の話では、「よく女の方がいらっしてお泊りになるんですよ。」と云っている。ブトウ酒を買って来た、いままでのなごやかな気持ちが急にくらくらして来る。苦労をしあった人だのに何と云うことだろう。よくもこんなところまで辿って来たものだと思う。街を吹く五月のすがすがしい風は、秋のように身にしみるなり。
夜。
ここの子供とかるめらを焼いて遊ぶ。
*
(五月×日)
六時に起きた。
昨夜の無銭飲食の奴のことで、七時には警察へ行かなくてはならない。眠くって頭の芯《しん》がズキズキするのをこらえて、朝の街に出てゆくと、汚い鋪道《ほどう》の上に、散しの黄や赤が、露にベトベト濡れて陽に光っていた。四谷《よつや》までバスに乗る。窓|硝子《ガラス》の紫の鹿《か》の子《こ》を掛けた私の結い綿の頭がぐらぐらしていて、まるでお女郎みたいな姿だった。私はフッと噴き出してしまう。こんな女なんて……どうしてこんなに激しくゆられ、ゆすぶられても、しがみついて生きていなくてはならないのだろう! 何とコッケイなピエロの姿よ。勇
前へ
次へ
全266ページ中132ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング