してもらって、あとはミシンでどうやら稼《かせ》いでいる、縁遠そうな娘さんなり。いい人だ。彼女に紹介状をもらって、××女性新聞社に行く。本郷の追分で降りて、ブリキの塀《へい》をくねくね曲ると、緑のペンキの脱落した、おそろしく頭でっかちな三階建の下宿屋の軒に、螢《ほたる》程の小さい字で社名が出ていた。まるで心太《ところてん》を流すよりも安々と女記者になりすました私は、汚れた緑のペンキも最早何でもないと思った。
 昼。
 下宿の昼食をもらって舌つづみを打つと、女記者になって二三時間もたたない私は、鉛筆と原稿紙をもらって談話取りだ。四畳半に尨大《ぼうだい》な事務机が一ツ、薄色の眼鏡をかけた中年の社長と、××女性新聞発行人の社員が一人、私を入れて三人の××女性新聞。チャチなものなり。又、生活線が切れるんじゃないかと思ったけれど、とにかく私は街に出てみたのだ。訪問先は秋田|雨雀《うじゃく》氏のところだった。この頃の御感想は……私はこの言葉を胸にくりかえしながら、雑司《ぞうし》ヶ|谷《や》の墓地を抜けて、鬼子母神《きしぼじん》のそばで番地をさがした。本郷のごみごみした所からこの辺に来ると、何故《なぜ》か落ちついた気がしてくる。一二年前の五月頃、漱石《そうせき》の墓にお参りした事もあった……。秋田氏は風邪を引いていると云って鼻をかみながら出ていらした。まるで少年のようにキラキラした眼、やさしそうな感じの人である。お嬢さんは千代子さんと云って、初めて行った私を十年のお友達のように話して下すった。厚いアルバムか出ると、一枚一枚繰って説明して下さる。この役者は誰、この女優は誰、その中に別れた男のプロマイドも張ってあった。
「女優ってどんなのが好きですか、日本では……」
「私判らないけど、夏川静江なんか好きだわ。」
 私はいまだかつて私をこんなに優しく遇してくれた女の人を知らない。二階の秋田さんの部屋には黒い手の置物があった。高村光太郎さんの作で、有島武郎さんが持っていらっしたのだとかきいた。部屋は実に雑然と古本屋の観があった。談話取りが談話がとれなくて、油汗を流していると、秋田さんは二三枚すらすらと私のノートへ手を入れて下すった。お寿司を戴く。来客数人あり。暮れたのでおくって戴く。赤い月が墓地に出ていた。火のついた街では氷を削るような音がしている。
「僕は散歩が好きですよ。」
 秋田氏は
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