てやるがどうだい。」
 羽二重のハッピをゾロリと着ながした一人の合百師が、私の手からペンを取って向うへ行ってしまった。
「アラ! そんないいもの……じゃアはいるわ、お金そんなにないから少しね。」
「ああ少しだよ、皆でおいなりさん買うんだってさ……」
「じゃ見せて!」
 相棒はペンを捨てて皆のそばへ行くと、大きいカンセイがおきる。
「さあ! 林さんいらっしゃいよ。」
 私も声につられて店の間へ行って見る。ハッピの裏いっぱいに描いた真赤な絵に私は両手で顔をおおうた。
「意気地がねえなア……」
 皆は逃げ出している私の後から笑っていた。

 夜。
 ひとりで、新宿の街を歩いた。

(七月×日)
「ああもしもし××の家《や》ですか? こちらは須崎ですがねイ、今日は一寸行かれませんから、明日の晩いらっしゃるそうです。××さんにそう云って下さいねイ。」
 又、重役が、どっか芸者屋へ電話をかけさせているのだろう、荻谷さんのねイがビンビンひびいている。
「ねイ! 林さん、今晩須崎さんがねイ、浅草をおごってくれるんですって……」
 私達は事務を早目に切りあげると、小僧一人を連れて、須崎と荻谷と私と四人で自動車に乗った。この須崎と云う男は上州の地主で、古風な白い浜縮緬《はまちりめん》の帯を腰いっぱいぐるぐる巻いて、豚のように肥った男だった。
「ちんやにでも行くだっぺか!」
 私も荻谷も吹き出して笑った。肉と酒、食う程に呑む程に、この豚男の自惚《うぬぼれ》話を聞いて、卓子の上は皿小鉢の行列である。私は胸の中かムンムンつかえ[#「つかえ」に傍点]そうになった。ちんやを出ると、次があらえっさっさの帝京座だ。私は頭が痛くなってしまった。赤いけだしと白いふくらっぱぎ、群集も舞台もひとかたまりになって何かワンワン唸りあっている。こんな世界をのぞいた事もない私は、妙に落ちつかなかった。小屋を出ると、ラムネとアイスクリーム屋の林立の浅草だ。上州生れのこの重役は、「ほう! お祭のようだんべえ。」とあたりをきょろきょろながめていた。
 私は頭が痛いので、途中からかえらしてもらう。荻谷女史は妙に須崎氏と離れたがらなかった。
「二人で待合へでも行くつもりでしょう。」
 小僧は須崎氏からもらった、電車の切符を二枚私に裂いてくれた。
「さよなら、又あした。」

 家へかえると、八百屋と米屋と炭屋のつけ[#「つけ」
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