は、こんなところにも、霧のような美しい光芒《こうぼう》を散らしていた。畳をあげた表の部屋には、あのひとの羽織がかけてあった。こんな長閑《のどか》な住居にいる人達が、どうして私の事を、馬の骨だの牛の骨だのなんかと言うのだろうか、沈黙《だま》って砂埃《すなぼこり》のしている縁側に腰をかけていると、あの男のお母さんなのだろう、煤けて背骨のない藁人形のようなお婆さんが、鶏を追いながら裏の方から出て来た。
「私、尾道から来たんでございますが……」
「誰をたずねておいでたんな。」
 声には何かトゲトゲとした冷たさがあった。私は誰を尋ねて来たかと訊《き》かれると、少女らしく涙があふれた。尾道でのはなし[#「はなし」に傍点]、東京でのはなし、私は一年あまりのあのひととの暮しを物語って見た。
「私は何も知らんけん、そのうち又誰ぞに相談しときましょう。」
「本人に会わせてもらえないでしょうか。」
 奥から、あのひとのお父さんなのか、六十近い老人が煙管《きせる》を吹き吹き出て来る。結局は、アメリカから帰った姉さん夫婦が反対の由なり。それに本人もこの頃造船所の庶務課に勤めがきまったので、あんまり幸福を乱さないでくれと言う事だった。こんな煤けたレモンの山裾に、数万円の財産をお守りして、その日その日の食うものもケンヤクしている百姓生活。あんまり人情がないと思ったのか、あのひとのお父さんは、今日は祭だから、飯でも食べて行けと云った。女は年を取ると、どうして邪ケンになるものだろう。お婆さんはツンとして腰に繩帯を巻いた姿で、牛小屋にはいって行った。真黒いコンニャクの煮〆《にしめ》と、油揚げ、里芋、雑魚の煮つけ、これだけが祭の御馳走である。縁側で涙をくくみながらよばれていると、荒れた水田の小道を、なつかしい顔が帰って来ている。

 私を見ると、気の弱い男は驚いて眼をタジタジとさせていた。
「当分は、一人で働きたいと云っとるんじゃから、帰ってもおこらんで、気ながに待っておって下さい。何しろあいつの姉の云う事には、一軒の家もかまえておらん者の娘なんかもらえんと云うのだから……」
 お父さんの話だ。あのひとは沈黙って首をたれていた。――どう煎《せん》じ詰めても、あんなにも勇ましいと思っていた男が沈黙っていて一言も云ってくれないのでは、私が百万べん言っても動いてくれるような親達ではない。私は初めて空漠とした思
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