。」
十子は汚れたエプロンを胸にかけて、皆にお土産の甘納豆をふるまっている。
今日は月の病気。胸くるしくって、立っている事が辛い。
(十月×日)
折れた鉛筆のように、女達は皆ゴロゴロ眠っている、雑記帳のはじにこんな手紙をかいてみる。――生きのびるまで生きて来たという気持ちです。随分長い事会いませんね、神田でお別れしたきりですもの……。もう、しゃにむに淋しくてならない、広い世の中に可愛がってくれる人がなくなったと思うと泣きたくなります。いつも一人ぼっちのくせに、他人の優しい言葉をほしがっています。そして一寸でも優しくされると嬉し涙がこぼれます。大きな声で深夜の街を唄でもうたって歩きたい。夏から秋にかけて、異状体になる私は働きたくっても働けなくなって弱っています故、自然と食べる事が困難です。金が欲しい。白い御飯にサクサクと歯切れのいい沢庵《たくあん》でもそえて食べたら云う事はありませんのに、貧乏をすると赤ん坊のようになります。明日はとても嬉しいんですよ。少しばかりの稿料がはいります。それで私は行けるところまで行ってみたいと思います。地図ばかり見ているんですが、ほんとに、何の楽しさもないこのカフエーの二階で、私を空想家にするのは梯子段の上の汚れた地図ばかりなのです。ひょっとしたら、裏日本の市振《いちぶり》と云う処へ行くかも知れません。生きるか死ぬるか、とにかく旅へ出たいと思っております。
弱き者よの言葉は、そっくり私に頂戴出来るんですけれど、それでいいと思います。野生的で行儀作法を知らない私は、自然へ身を投げかけてゆくより仕方がありません。このままの状態では、国への仕送りも出来ないし、私の人に対して済まない事だらけです。私はがまん強く笑って来ました。旅へ出たら、当分田舎の空や土から、健康な息を吹きかえすまで、働いて来るつもりです。体が悪いのが、何より私を困らせます。それに又、あの人も病気ですし、厭《いや》になってしまう。金がほしいと思います。伊香保の方へ下働きの女中にでもと談判をしたのですが、一年間の前借百円也ではあんまりだと思います。――何のために旅をするとお思いでしょうけれど、とにかく、このままの状態では、私はハレツしてしまいますよ。人々の思いやりのない悪口雑言の中に生きて来ましたが、もう何と言われたっていいと思います。私はへこたれてしまいました。冬になった
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