あ田舎にも退屈してしまった。
「お前もいいかげんで、遠くへ行くのを止めてこっちで身をかためてはどうかい。お前をもらいたいと云う人があるぞな……」
「へえ……どんなひとですか?」
「実家は京都の聖護院《しょうごいん》の煎餅《せんべい》屋でな、あととりやけど、今こっちい来て市役所へ勤めておるがな……いい男や。」
「…………」
「どやろ?」
「会うてみようかしら、面白いなア……」
何もかもが子供っぽくゆかい[#「ゆかい」に傍点]だった。田舎娘になって、初々しく顔を赤めてお茶を召し上れか、車井戸のつるべを上げたり下げたりしていると、私も娘のように心がはずんで来る。ああ情熱の毛虫、私は一人の男の血をいたち[#「いたち」に傍点]のように吸いつくしてみたいような気がする。男の肌は寒くなると蒲団のように恋しくなるものだ。
東京へ行きましょう。夕方の散歩に、いつの間にか足が向くのは駅への道だ。駅の時間表を見ていると涙がにじんで来て仕方がない。
(十二月×日)
赤靴のひも[#「ひも」に傍点]をといてその男が座敷へ上って来ると、妙に胃が悪くなりそうで、私は真正面から眉をひそめてしまった。
「あんたいくつ?」
「僕ですか、二十二です。」
「ホウ……じゃ私の方が上だわ。」
げじげじ眉で、唇の厚いその顔は、私は何故《なぜ》か見覚えがあるようであったが、考え出せなかった。ふと、私は明るくなって、口笛でも吹きたくなった。
月のいい夜だ、星が高く光っている。
「そこまでおくってゆきましょうか……」
この男は妙によゆうのある風景だ。入れ忘れてしま[#「しま」に傍点]った国旗の下をくぐって、月の明るい町に出てゆくと、濁った息をフッと一時に吐く事が出来た。一丁歩いても二丁歩いても二人共だまって歩いている。川の水が妙に悲しく胸に来て私自身が浅ましくなってきた。男なんて皆火を焚《た》いて焼いてしまえだ。私はお釈迦《しゃか》様にでも恋をしましょう。ナムアミダブツのお釈迦様は、妙に色ッぽい目をして、私のこの頃の夢にしのんでいらっしゃる。
「じゃアさよなら、あなたいいお嫁さんおもちなさいね。」
「ハア?」
いとしい男よ、田舎の人は素朴でいい。私の言葉がわかったのかわからないのか、長い月の影をひいて隣の町へ行ってしまった。明日こそ荷づくりをして旅立ちましょう……。久し振りに家の前の燈火のついたお泊宿
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