してもらおうと思えば、私はその何十倍か働かねばならないじゃないの。真実同志よと叫ぶ友達でさえ嘲笑っている。
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歌うをきけば梅川よ
しばし情《なさけ》を捨てよかし
いずこも恋にたわぶれて
それ忠兵衛の夢がたり
[#ここで字下げ終わり]
詩をうたって、いい気持ちで、私は窓|硝子《ガラス》を開けて夜霧をいっぱい吸った。あんな安っぽい安ウイスキー十杯で酔うなんて……あああの夜空を見上げて御覧なさい、絢爛《けんらん》な、虹《にじ》がかかった。君ちゃんが、大きい目をして、それでいいのか、それで胸が痛まないのか、貴女の心をいためはせぬかと、私をグイグイ掴んで二階へ上って行った。
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やさしや年もうら若く
まだ初恋のまじりなく
手に手をとりて行く人よ
なにを隠るるその姿
[#ここで字下げ終わり]
好きな歌なり。ほれぼれと涙に溺れて、私の体と心は遠い遠い地の果てにずッとあとしざりしだした。そろそろ時計のねじがゆるみ出すと、例の月はおぼろに白魚の声色屋のこまちゃくれた子供が来て、「ねえ旦那! おぼしめしで……ねえ旦那おぼしめしで……」とねだっている。
もうそんな影のうすい不具者なんか出してしまいなさい! 何だかそんな可憐《かれん》な子供達のささくれた白粉の濃い顔を見ていると、たまらない程、私も誰かにすがりつきたくなる。
(十一月×日)
奥で三度御飯を食べると、主人のきげんが悪いし、と云って客におごらせる事は大きらいだ。二時がカンバンだって云っても、遊廓《ゆうかく》がえりの客がたてこむと、夜明けまでも知らん顔をして主人はのれん[#「のれん」に傍点]を引っこめようともしない。コンクリートのゆか[#「ゆか」に傍点]が、妙にビンビンして動脈がみんな凍ってしまいそうに肌が粟立《あわだ》ってくる。酸っぱい酒の匂いが臭くて焦々する。
「厭になってしまうわ。……」
初ちゃんは袖をビールでビタビタにしたのを絞りながら、呆然とつっ立っていた。
「ビール!」
もう四時も過ぎて、ほんとになつかしく、遠くの方で鶏の鳴く声がしている。新宿駅の汽車の汽笛が鳴ると、一番最後に、私の番で銀流しみたいな男がはいって来た。
「ビールだ!」
仕方なしに、私はビールを抜いて、コップになみなみとついだ。厭にトゲトゲと天井ばかりみていた男は、その一杯のビールをグイと
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