うのはここでは少女たちの囚人を指して云うのですが、工場で縫物をしている娘たちのことを考えてみますと、この娘たちの肉親たちは、どんな気持ちでこの娘たちを迎えるのかと考えられてなりません。罪人としては些細《ささい》な罪を犯して来ている人たちばかりかもしれませんが、このひとたちの生涯にとっては些細なものだったと云いきれない色々な気持ちがあるとおもいます。その色々な苦しい気持ちをここで洗い清めて出所して来た人にまで辛くあたる社会であってはならないとわたしはおもうのでした。どんなにでも傍《そば》へ寄ってあげて、わたしたちは、このひとたちを温かくなぐさめてあげるべきだとおもうのです。
 女の刑務所だけは誰もいない刑務所にしたいものです。――教誨師の方たちは十八人も居られるそうでしたが、どのひとも若いひとばかりで暗い感じなんか少しもありませんでした。狭い散歩場に、赤いけしの花が咲いていたけれど、体操の折々あのひとたちは、あの真紅な花をどんな気持ちでながめていることでしょう。



底本:「林芙美子随筆集」岩波文庫、岩波書店
   2003(平成5)年2月14日第1刷発行
底本の親本:「林芙美子全集」文泉堂出版
   1977(昭和52)年
   「林芙美子選集」改造社
   1937(昭和12)年
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:岡本ゆみ子
校正:noriko saito
2008年3月4日作成
青空文庫作成ファイル:
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