のやうに素早く私のそばから羽ばたいて走つて行つた。ヒラヒラしてゐる合羽の後姿には、あのゴム長の子供にないやうな時計のやうな富裕な生活の影がへばりついてゐる。
 夜は、豪雨であつた。私は郊外の駅から自動車をひろつて会場へ行つた。会場は椅子も卓子も雨でべたべたしてゐた。集まつた人達もすくなかつた。友人は立ちあがつて、情熱のこもつた挨拶をした。私は箸をつかひながら、雨の降つてゐる片隅の町の色々な生活を考へ、麦を買ひたがつてゐた子供や、私に二銭でもいいからほしいと言つた子供が、いつたいこの夜を、何をしてゐるのだらうかと、そんな考へに沈んで行くのであつた。



底本:「林芙美子全集 第十五巻」文泉堂出版
   1974(昭和52)年4月20日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:林 幸雄
校正:花田泰治郎
2005年6月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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