クララ
林芙美子

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【テキスト中に現れる記号について】

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)かめ[#「かめ」に傍点]
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 むつは、何か村中が湧きかえるような事件を起してやりたくて寢ても覺めても色々なことを考えていました。窓に頬杖をついて山吹のしだれた枝を見ていると、山吹の長い枝がふわふわ風にゆれています。じっと見ているとだんだん面白くなって來ました。風は神樣に違いないと思い始めました。にんじゅつをつかって姿を見せないで、山吹の葉の下で鼠のようにチロチロ遊んでいるのだろうと思いました。むつは前よりも、もっと熱心に視つめました。羽根の生えた蟻のような蟲がぶうんと山吹の枝へ飛んで來て兩手でお祈りをしています。風の神樣はエス樣だろうと思いました。教會の牧師さんの家の下には、たくさんかめ[#「かめ」に傍点]がいけてあって、そのかめ[#「かめ」に傍点]の中へ油がたくさん貯えてあるそうだけれども、あの油が風の神樣ではないのだろうかと、むつはぼんやり羽蟲のお祈りを見ていました。しばらくすると羽蟲はまたどっかへぶうんと飛び去って行きましたが、山吹の長い枝の一つ一つに
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