とても重いので、眼鏡のつるに、木で出来たブイがついていました。ブイが両側についているので、大きい眼鏡はゆらゆらと、校長先生のひくいおはなのまわりに、丁度都合よくつりあっています。
 海のなかでは、食べものも何も持って歩くことがないのです。何でもお金と云うものがいらないので、どこでも自由に食べる事が出来ました。
 ひらめの生徒の行列は校長先生の後から、愉しそうに泳いでゆきました。
 昆布の林を抜けたり、サンゴの森をくぐって行きました。時々、ぶりの家族が泳いで来ます。すると、体操の先生が、ピッと笛を吹きます。生徒は校長先生をまんなかにして、岩の上にぺたっと張りついて、ぶりの家族をやりすごしてやります。
 やっと鯖村へ着くと、青いユニホームの鯖の子供が沢山岩の門まで迎えに来ました。岩の門をくぐると、驚いた事に、銀色の大きい怪物が、羽根に真紅なまるいマークをつけてどっかりと砂地にころんでいました。
 まことに珍らしいものです。校長先生は、眼鏡のブイを握ってじいっと見とれていました。鯖村の村長さんも女の方です。とてもよくふとった方で、きれいな藻で首巻きをつくって、それを自慢そうに脊中にかけていらっしゃいました。
「みなさん、よくいらっしゃいましたね。これは、ごらんのような妙なものですが、陸上の人間のつくった飛行機と云うものだそうで、竜宮の鯛王も、先日わざわざ見にいらっしゃいました。いま、陸上では人間が戦争と云うものを始めているのだそうです。鱶さんはとても面白がって、鱶村全部で南の海へ戦争を見に行ったそうです。鯛王も、なるべく鱶族が長く南にたいざいしてくれるといいとおっしゃっていました。さア、みなさん、御自由に、飛行機と云うものをごらん下さい。」
 ひらめの生徒はよろこんで飛行機のまわりを泳ぎはじめました。
「ねえ、これは何だろう?」
 大きい円いゴムの車輪が上を向いています。
「これはすべり台かもわからないわ。」
 みんな珍らしくて仕方がありません。ガラスの窓から中へはいると、小さい人形がぶらさがっています。とても可愛いので、鯖村の村長さんにうかがって、ひらめ学校の生徒はそれを記念にいただきました。
 見物が済むと、岩の中の食堂で、ひらめ学校の生徒は沢山御馳走になって、夕方ぢかくひらめ村へみんなで戻って来ました。
 学校には夜光虫の灯がついていました。
 みんな灯のそばへあつ
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