て生きています。このごろは、どこから来たのか、小さいのや大きい犬を三四匹もひきつれて、ふざけちらして走っています。
「犬って東京だけにいるのかねえ?」
 金井君がいいました。
「どうして」
「だって、長野の山の中には、犬なんてめったにいなかったよ、猫の方がたくさんいたなあ」
 金井君は、去年の三月、長野へ疎開して行きました。僕にもいっしょに行こうとさそってくれたのですけれど、僕はおとうさんが出征していなかったし、おかあさんが、どんなに苦しくてもいっしょにいて下さいとおっしゃったから山へ行かなかったのです。
 金井君は山のあらもの屋でとうがらしを買ってなめたお話をよくします。
 ごはんがたりなくておなかがすくので、みんなあらもの屋へいって、たべられるようなものを何かさがすのだそうです。はじめはオレンジのもとというあかい粉を買ってなめていたけれど、みんなが、それを買うので、それもなくなり、こんどはわさびの粉を買ったり、とうがらしを買ったりしてなめた話をしました。
 金井君はとても正直ですから、よく田舎の話をするたび、田舎の生活をあまりよくいいません。よっぽど苦しかったとみえて、田舎では東京
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