よ」
僕のおとうさんも金井君の発明にはおどろいています。
勉強がすむと、さっそく金井君はらんちゅうのうたをつくりました。
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はでなおじさんだなァ
黙っているから変だよ君は
ぬれたきものをいつかわかすの
どこへでも水をもって旅行している
らんちゅうのおじさん
どこから来たの君は
だまっているから
みんなが君を笑っているよ。
[#ここで字下げ終わり]
僕はなかなか金井君みたいにはやく出来ません。
「ハヴァハヴァ」
と、金井君がせきたてると、なおさら出来ないのです。ただ頭の中をパンのように大きい金魚がうろうろしています。
今日は日曜でおとうさんはおうちです。
「金井君、これはどうだ、おじさんの歌はつまらないかな‥‥」
おとうさんが和歌をつくって持って来ました。
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水の上の水の光にらんちゅうは
きわまり燃ゆる四囲ながめぬ
[#ここで字下げ終わり]
「これはねえ、空襲最中のらんちゅうだよ」
そういって、おとうさんはおかしそうに笑いました。
家が焼けている最中に、らんちゅうなんか持って逃げる人はないでしょう。水がにえて来る時のらんちゅうはどんなに悲しかったでしょう。僕はそのころ、おかあさんとふるえながら、壕の中で、一面火の海になったのを見ていましたけれども、らんちゅうのことなんか気がつきませんでした。
金井君の家では、空地を借りて七百本もいもを植えたので、もうじき、いもほりをするから持って来てあげようといってくれます。人にとられるといけないから早ぼりをするのだといっていました。
19[#「19」は縦中横]
夜、要さんが遊びに来ました。要さんのおうちも暮しが大変だから、学校をやめてしまって、印刷所につとめに行くのだと相談に来たのだそうです。
要さんの姉さんも、いまはタイピストになって丸の内の会社につとめています、いまは、どこのおうちも大変な時なのだと思います。
僕も、中学なんか行くのはよそうと思ったりしますけれど、考えてみると、中学へ行くことをやめるのはいやだと思いました。僕たちが中学へ行くころは、何とかいい暮しになるといいと思います。
要さんが学校をやめるといいますと、おとうさんはふきげんな顔をしてだまっていました。
「だって、このままぢゃ仕方がないでしょう。僕は、年をとってから学校へ行
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