ました。
おとうさんは会社をおやすみになり、僕たちは学校へ行きました。学校へ行っても、お家のことが心配です。でも、どこを見ても青青としていて気持がいいし、このごろはお天気つづきで学校の野菜畑にも出られるし、みんな戸外にいるのがたのしそうです。今年は早く夏休みがあるのだそうです。金井君は学校が休みになっても、学校の畑をみまわりに来るのだといっていました。
僕たちの級の畑には、馬鈴薯とさつまいもと、ふだん草と、とうもろこしが植えてあります。金井君はとても畑つくりがうまくて、こつこつ畑をやっています。
「ねえ、馬鈴薯の花って白だのむらさきだのきれいなはずだに、学校の馬鈴薯は少しも花が咲かないねえ」
僕がたずねますと、金井君は、
「馬鈴薯はあまり花をつけちゃあ、いもがつかないんだよ。花が咲きかける時にこやしをやって、根に力をつけてやるようにすると、咲きかけた花に養分が行かなくなって、自然に花がしぼんでゆくのさ、そうすると馬鈴薯がぐんぐん大きくなっているしょうこだよ」
と申しました。
「ふうん、面白いんだねえ‥‥植物って、なかなかしんけいしつなんだね」
「そりやそうさ、生物ってものは、ちゃんとよくみてやらなくちゃ何にもならないよ。肥料一つでとてもちがうんだぜ」
道理で、女生徒の畑は水ばかりじゃぶじゃぶかけているのでいやにひょろひょろしているけれど、僕たちの畑はとてもりっぱです。みんな金井君の指導です。
「第一、ものを植えるっていってもね、陽あたりのいいってことが一番大切なんだよ。木の下だの、一日ぢゅう陽のあたらないところは駄目、みんな、ところかまわず植えればいいってものぢやないものね。その次が肥料と手入れさ。肥料をやらなくちゃいいものは出来ないね」
このあいだも、なすを植える時、金井君は畑でどんどん火をたいて、その灰をよく土にまぶして、なすを植えつけました。水は一回もやらないのに、なすはぐんぐんそだっています。
なすの苗は、金井君が千葉のお百姓家でわけてもらって来たもので、とてもいい苗でした。
やみ屋になりたいという大谷君は、金井君のあとばかりくっついて、一生懸命に働きます。でも、時時、どっかで、いろんな種をあつめてきて、畑のすみに植えるので、金井君は時時大谷君をしかります。このあいだも、朝顔の種を持って来て、トマトの苗のところに植えました。そして、ダルマノメ
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