か、というのがハッキリ聞えて来たから、冗談《じょうだん》にしては灰《あく》が強すぎる。思わずゾクッ! と水を浴びた気の大迫玄蕃が、何事であろう? 誰であろう! 聞耳を立てながら、刀の綱をとく手を休めていると、途轍《とてつ》もない大声だから、皆に聞えたに相違ない。間もなく、下から人が廻ったとみえて、玄関口がガヤガヤし出したかと思うと、バタバタバタと廊下を駈けて来る跫音《あしおと》、それが、部屋の前にピタリ停まって、これもやっぱり、脳天から吹き出す声だ。
「との、との、殿様――」と来た。「ちょ、ちょっとお顔を――」
 用人《ようにん》の源伍兵衛《げんごべえ》老人である。さては、自分の気の迷いで、廊下には何人も立ってなんぞいなかったのだと思うと、玄蕃《げんば》、一時に胆力《たんりょく》を恢復《かいふく》して、
「何だ、騒々《そうぞう》しい。豆腐屋《とうふや》を呼びに行くんじゃあるめえし、矢鱈《やたら》に走るな」
 こんなように、好んで江戸がった崩れた言葉を使うのが、大迫玄蕃なのだ。さくい[#「さくい」に傍点]お殿様てエところを狙《ねら》ってるわけで。
 ところが、用人源伍兵衛の語調《ごちょう
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