来やアがった。テッ! そそっかしいやつもあるもんだ。誰だこりゃア?」
「馬鹿ッ! 首を忘れて来るてエやつがあるか。第一、首が無くて歩けるか。方向がわかるまい。眼は、御同様首についているからナ」
「なるほど、それは理窟だ。が、その首がなくて、どうしてここまでやって来たろう?」
「今の今まで、頼もう、頼もうといいおったが、あの声は口から出おったに相違ない。口は首についておるはず。その首が無くして声を発したとは、イヤ、貴殿の前だが、不可思議千万……」
ナニ、不可思議千万なことがあるものか。
「一体何者だ」
「何者だと言って、それは無理じゃよ。見らるる通り首がないのじゃから、どこの何ものともわからぬ」
「あッそうか。首は、どこかそこらに転がっておらぬか」
安人形と思っている。一人が屍体に手をかけて見て、
「おやア! 背中に紙が貼《は》ってあるぞ! 何だと……亡、者? ワッ! 亡者とある。ウム、確かにまた、喬之助の悪戯《いたずら》――」
「すると、御書院番士の一人にきまった。これはこうしてはおられぬ」
こうしてはおられぬと言ってさし当りどうしようもない。剣士一統、矢鱈《やたら》に柄を叩いて敷台《しきだい》から前庭《まえ》の植込み、各室へ通ずる板廊《いたろう》のあたりをガヤガヤ押し廻っていると、
「さあ大変! この間に早く」
頭のてっぺんから声を出して、風が吹くように奥からスッ飛んで来た二人の人影がある。ソラ出た! と言うんで、気の早い鏡の丹ちゃんなんかがおっ取り刀、グルリ取り巻いてみると、長庵先生と市松お六だ。長庵はとにかく、お六はこれでも師匠造酒の本妻とも妾ともつかない、謂わばこの下町の道場の大姐御だから、門弟一同、奥様扱いして一|目《もく》も二|目《もく》も置いているのだ。
「どうなさいました」比企一隆斎が口をきって、「この坊主は何ものです! こいつを成敗《せいばい》なさいますか」
気がつくと、お六は、長庵と手を握《にぎ》り合っているから、あわてて離して、
「イイエ、そうじゃないんですよ。この方は大事なお客様、わたしがお送りして、今お帰し申すところ――それより、奥に、釣竿を担《かつ》いだ変な入道《にゅうどう》が飛び出して、先生と斬り合いになろうとしています。皆さん、早く行ってみて下さい。その入道がこの妙見様を首にしたんですよ」
「エッ! こ、これは妙見……妙見勝
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