えていると、さっき台所へ酒を取りに行ったお六が帰って来て、はいってこようとして障子のあいだから覗《のぞ》き込んだ。
そして、長庵と顔が合って、あッ! と両方が驚いた拍子に、お六の手から銚子《ちょうし》が辷《すべ》り落ちて、……途端に、あわただしい跫音《あしおと》が廊下を飛んで来た。
先刻の門弟である。
「先生、お玄関に、屍骸《しがい》が――首のない屍骸が……来て見て下さい!」
「何ッ!」
畳を蹴《け》って突っ立った神保造酒、流石《さすが》は剣士、何時の間にか大刀を右手に部屋を走り出る、とプウーン! と鼻をつく線香のにおいが、どこからか香《にお》って来ている。
見ると、隣室である。
そこは書院だ。床の間のまえに、経机《きょうづくえ》が一|脚《きゃく》置《お》いてある。
その上に首――妙見勝三郎の首、たった今玄関で呶鳴っていた妙見勝三郎の首……その首が、紙片《かみきれ》をくわえている。
紙には、十番首と大きく書いてあるのだ。そして、机の前に煙草盆《たばこぼん》を置いて、それに線香が立ててある。
紫のけむりがユラユラと――首供養《くびくよう》。造酒は、首を白眼《にら》んで、ウウム! と唸った。
なみだ雨《あめ》
一
無形一刀、天下無二の使い手神保造酒先生は、紫いろの線香のけむりがユラユラと絡《から》む首を白眼《にら》んでウウム! と唸《うな》った。
書院の床の間のまえに、経机が置かれて、その上に、生首が一つ飾《かざ》ってあるのだ……妙見勝三郎の首、たった今玄関で、
「頼もう!――お頼み申す!」と呶鳴《どな》っていた妙見勝三郎の生首である。
しかも、その首が、紙きれをくわえているのだ。紙には、十番首と大きく書いてある。そして、机の前に煙草盆を置いて、それに線香が立ててある……首供養《くびくよう》!
何とも不敵な趣向《しゅこう》だ。
銀百足《ぎんむかで》の名ある豪刀を引ッ掴んだ神保造酒、さすがに度胆《どぎも》を抜かれたのか、片手を障子にかけたまま、その座敷へ踏み込みもせず、じッ! 眼を据えて凝視《みつ》めている。
どうしてこの首がここにあるのか――考えて見た。
今の先、お六を相手に酒を呑んでいると、玄関に人の訪れる声がした。お六が取次ぎに出ようとするのを止めて酒を取りにやったのだが、それと入れ違いに門弟の一人が来て、脇坂山
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