出羽の赤い煩悩毒血が、赤い駕籠を赤く染めて、まるで噴き出すように散った。
こうして三人の煩悩児は、煩悩の利剣によって、煩悩をもって煩悩を制し、祖父江出羽を仕止めたのだったが――その時から、この兼安の刀面から、女髪は掻き消すように消えたと言われている。出羽の煩悩の血に満足して、煩悩の女髪、刀を離れたのだ。
あとで、その出羽の死顔から頭巾を外して見ると、彼の顔には恐ろしい刀痕が十字に刻まれていた。これは、小信に傷つけられた時のあとで、彼女が傷を負わしたのは、背中にだけではなかったので、出羽はそれを隠して、その時から弥四郎頭巾を被り、疵を癒しに、あの阿弥陀沢《あみだざわ》の猿の湯へ湯治に行ったのだったが――。この出羽守の疵痕が、大次郎の疵あとと寸分も違わなかったのは、これこそ恐ろしい煩悩の因縁と言うべきであろうか。
かくして、煩悩は無に帰し、三人はここに、名誉、金、女色の三煩悩を解いた。
大次郎と千浪は、小信を劬《いた》わって、また江戸への旅に――。
佐吉と由公は、煩悩小僧の罪滅ぼしに四国巡礼へ――。
宗七とお多喜は、中仙道を廻って、これも江戸への恋慕流しの夫婦旅。
その三方へ別れる追分で、佐吉が背後に両手を廻して、宗七の前に頭を下げながら、
「約束だ、縛ってくんねえ。」
「何を言ってるんだ。江戸じゃあ煩悩小僧かもしれねえが、これからは四国詣での巡礼さん――それに、この宗七も、もう十手を持つ手はねえ。元気でお札所を廻って来なよ。」
にっこり別れる三つの旅――また七年後七月七日まで――それまで三人離ればなれに世を送って、やがてはあの田万里へ集まって廃村を興そうと言うので、夕陽を追って、三組が三つの道へ別れて行く。その相良の城下はずれの追分には、何事もなかったように、上り下りの馬子唄と、馬の鈴の音がしゃらん、しゃららんと――。
底本:「一人三人全集1[#「1」はローマ数字、1−13−21]時代捕物釘抜藤吉捕物覚書」河出書房新社
1970(昭和45)年1月15日初版発行
入力:川山隆
校正:松永正敏
2008年5月20日作成
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