底から引きずり出して――。」
もう解け出した雪の道を、八丁堀の合点長屋へ帰って来た藤吉彦兵衛の二人は、狭い流し元で朝飯の支度をしていた勘弁勘次の途法もない胴間声で、格子戸を開けるとすぐまず驚かされた。
「すまねえ。」
と勘次は火吹竹片手にどなった。
「今し方頭の常公が来て話して行ったが、親分、徳撰じゃえれえ騒動だってえじゃありませんか。知らぬが仏でこちとらあ白河夜船さ、すみません。ま、勘弁してくんねえ。それで犯人《ほし》は?」
「世話あねえやな。」
釘抜藤吉は豪快に笑った。
「朝めし前たあこのことよ。なあ、彦。」
が、七輪に沸《たぎ》っている味噌汁の鍋を覗き込みながら、葬式彦兵衛は口を尖らせた。
「ちぇっ。」と彼は舌打ちした。
「勘兄哥の番の日にゃあ、きまって若芽《わかめ》が泳いでらあ。」
底本:「一人三人全集1[#「1」はローマ数字、1−13−21]時代捕物釘抜藤吉捕物覚書」河出書房新社
1970(昭和45)年1月15日初版発行
初出:「探偵文藝」
1925(大正14)年4月号
入力:川山隆
校正:松永正敏
2008年6月7日作成
青空文庫作成ファイル:
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