麻だっ!」
「――じゃ、ど、どこを通って逃げたってえんだ? あ、足形が一つもねえじゃねえか!」
「溝!」
「わあっ!」
と叫んで走り出した味噌松、折柄帰って来た彦兵衛にぶつかれば、両方がひっくりかえる。跳び上った松、彦に足を取られて、た、た、た、た、と鷺踏《さぎと》びのまま機《はず》みと居合いとで逆手に抜いた九寸五分。すかさず下から彦が払う。獲物は――と言いたいが拾って来たらしい水だらけの傘一本。
「勘!」
藤吉が呶鳴った。
「おう。」
と飛んで出た御家人崩れの勘弁勘次、苦もなく利腕《ききうで》取ってむんず[#「むんず」に傍点]と伏せる。味噌松は赤ん坊のような泣声を揚げた。彦兵衛は起き上って、
「親分、これ。」
と傘を出す。
「どうだった?」と藤吉。
「へえ、ありやした。たしかにあった。あれじゃあいくら浚《され》えてもかからねえはずだて。」
「水ん中の船底にぴったり[#「ぴったり」に傍点]貼りついてたろう、どうだ?」
「仰せのとおり。」
葬式彦兵衛は二つ三つ続けさまに眼瞬《まばた》きをした。
烏の群から怪しいと見た藤吉が、鎧の渡しへ彦兵衛をやって一番多く烏の下りている小舟の
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