も、なんの音沙汰もないばかりか、さながらこの家へとじこめられたなり、すっかり忘れられてしまったよう――。
どこから運んでくるのか、三度三度の食事などは、ごちそうずくめ。
身のまわりの用を達するには、ちゃんと侍女がつけられているし、なんの不足があるわけではないが。
これでは、まるで、日光へ寝ころびに来たようなもの。作阿弥に会いたいということを伝達したいにも、その方法がない。
唖なのです。……その唯一の腰元というのは。
まず、退屈しはじめたのはお美夜ちゃんで、
「ねえ、母ちゃん。日光の町のほうへ、お爺ちゃんを探しにゆきましょうよ」
「そうねえ。いつまでもここに、ぼんやりしていることもない。途中でお役人様に会ってきいたら、おじいちゃんのいどころも知れるかもしれない」
べつに、戸じまりが厳重だというわけでなし、垣根が結いめぐらしてあるのでもないから、お蓮様はお美夜ちゃんの手を引いて、庭づたいに、雑木林の小みちをたどろうとすると。
忽然《こつぜん》として、五、六人の足軽風の者が現われて、そのまま家へ追いかえされてしまう。
体《てい》のいい監禁ということに、お蓮様が気がついたのは、このときからだった。
「江戸から、当|山内《さんない》の作阿弥という者をたずねてまいった者です。どうぞ、作阿弥にお会わせくださいますよう……」
お蓮様の必死の願いにも、足軽どもは相手になろうともしない。
三
この、裏見の滝道の林の中の一軒家。
あそこに住む女と娘は、狂人と白痴だから、何を言っても取りあげるな……警備の役人、足軽たちは上司から、こう言い聞かされている。
「ああ見えていて、狂気だそうだ。娘はまた、生まれつきの馬鹿で、母娘《おやこ》そろってあのありさまとは、なんとも哀れなものじゃのう」
「御造営竣工まで、厳のうえにも厳なる警戒を要する日光御山内に、どうしてまた、ああいう母娘づれの狂人などが、舞いこんできたのであろう」
「さればサ、どこからともなくフラフラッと、鹿沼新田《かぬましんでん》のお関所にさしかかったと申すことじゃ」
「捕えてただしてみても、何を言うやらさっぱり要領を得ぬ。引き渡そうにも、身もとは知れぬし、と言って、ああいう者をさまよわせておいては、清浄森厳《せいじょうしんげん》であらねばならぬ御造営の眼ざわりじゃ。造営奉行の面目にもかかわる」
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