蓮さま、何を思ったか濡れ手をふきふき、ころがるようにそれへ走り出て、
「お美夜、おまえそれはほんとうかい? おお、よく言っておくれだ。わたしも、お祖父《じい》ちゃんとあんなあわただしい別れ方をして、気になってならないんだよ。ねえ、泰軒先生、後生ですから此児《これ》と二人で、日光へ行くことをお許しくださいまし」
意外な助け船に、お美夜ちゃんはたちまち眼をかがやかして、
「母ちゃんも、お爺ちゃんに会いたいの? じゃ、いっしょに行きましょうよねえ」
お蓮様の眼から、みるみる大粒な涙がわいて、いきなり彼女は、しっかとお美夜ちゃんの手をとった。
「おう、ありがとうよ、ありがとうよ。はじめて母ちゃんと言っておくれだねえ。わたしはそれを聞いて、もうもう……いつ死んでもよい」
ほうり落ちる涙が、だき寄せたお美夜ちゃんの顔へ。
お美夜ちゃんは気味わるそうにびっくりしたようすだったが、
「ええ、あたい、だんだん母ちゃんのように思ってきたわ。だからいっしょに泰軒小父ちゃんにお願いして、ねえ、早く日光へ――」
チョビ安はポカンと口をあけたまま、あっけにとられて、このありさまを見守っています。
「それじゃア、わっちは出なおしてきやすから、ヘイ」
引っこみのつかなくなった銅義、こそこそ框《かまち》へにじり寄ると、そこでチョビ安とお辞儀をして、出て行ったが、誰ひとりそれに気のつくものもない。
じっと眼をつぶって、考えこんでいる泰軒先生、
「安大人《やすたいじん》」
と静かに声をかけて、
「これをとめることはできまい」
「エ? するとなんですかい、お美夜ちゃんとお蓮さんを、日光へ出してやろうとおっしゃるんで?」
「父同様に育ててくれた祖父《そふ》に、一眼会いたいというお美夜坊のまごころ――また、不孝をしつづけてきた老父に、最後の詫びを願いたいというお蓮どのの赤誠《せきせい》。このふたつがいっしょになったのでは、どう考えても、それをとめる力は人間にはないぞ、チョビ安」
「なに言ってやんでエ、泰軒坊主メ! なら、おいらもいっしょにゆかア」
とチョビ安は、ぐいと眼をこすった。
六
「そううまく鴨《かも》が引っかかればよいがのう」
六尺棒をトンと土について、こう言ったのは、この関所をあずかる柳生の役人の一人、津田|玄蕃《げんば》というお徒士《かち》。
「そうさの。こう
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