、どう思っているんだい? 好きなのかい?」
 お美夜ちゃんは言下《ごんか》に、
「大きらいだわ。とてもお母ちゃんなんて思えないの」
「そんなら、いっしょに日光へ行くなんてよしねエ」
「だってサ、あたい、お爺ちゃんに会いたいんですもの」
 いつまでたっても同じ問答。

       四

 いつまでたっても同じ問答だから、チョビ安はお美夜ちゃんを、グイグイ引ったてて家へ帰って来ました。
 長屋には、もうすっかり灯がはいって、主人のいない作爺さんの家には、狭い水口でお蓮様が、かたことささやかな夕餉《ゆうげ》のしたくを急いでいる。
 人間って、気持の持ちようや環境ひとつで、こうも変わるものでしょうか。
 昨日《きのう》までは、剣術大名司馬道場の御後室様として、出るにも入るにも多勢の腰元にとりまかれ、妻楊枝《つまようじ》より重いものは持ったことのないお蓮様。
 源三郎への恋をあきらめ、丹波とともに仕組んだ道場乗っ取りの陰謀にも、ふいと思いを断った彼女。
 眼が覚めたように思い出したのが、何年となくこの長屋に置きざりにして、暑さ寒さの便りひとつしたことのない父なる作阿弥と、その手もとにあずけっぱなしの、わが子お美夜のうえであった。
 世をすて、何もかも振り切って、とびこむようにここへかけつけて来てみると、入れちがいに父の作呵弥は、日光御用に召し出されてしまう。
 しかも。
 わが子に違いないお美夜ちゃんは、いつまでたってもなじんではくれず、チョビ安という腕白小僧といっしょになって、白い眼を見せるばかり。
「あんたが悪いのじゃから、辛抱して母のいつくしみを見せにゃならぬ。いわば、自業自得というものじゃでナ」
 と、この、人情の機微をうがちつくした泰軒居士の言葉が、この際お蓮様にとっては、わずかのたよりになるのでした。
 それにつけても。
 なんという変わりようでございましょう。
 まるで別人。
 ここらの長屋のおかみさんといってもいいような、つっかぶりようで、引っつめの髪は横ちょに曲がり、真岡木綿《もうかもめん》のゆかたの襟に、世話ぶりに手拭をかけて、お尻のところにずっこけそうに、帯を結んだ姿。これを道場の連中に見せたら、なんというでしょう。
 貝細工のようだった指も、今は水仕事にあらくれて、
「サアサア、どうぞ。ええええ、先生は奥に――」
 と、ちょっと家内《なか》を振りかえ
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