に白布《はくふ》一反ずつ長尺《ちょうじゃく》に織りあげさせ、布《ぬの》の端にその村の地名を書き、それぞれ役人があずかりおいて、命令によってただちに駅送《えきそう》する。こうでございましたな? 実にどうもややこしいかぎりで……ところで、お関所のお手配は?」
三
今この主水正の言った、お関所というのは。
日光|御作事中《ごさくじちゅう》、仮りにこしらえるもので。
このときは、並木本村《なみきもとむら》、下幸村《しもゆきむら》、鹿沼新田《かぬましんでん》の三か所に、御造営中あらたに関所を設け、お先手衆《さきてしゅう》ひと組ずつ年《とし》番で勤めたものです。
この制度は、箱根、笛吹《ふえふき》両関所に準じ、出入りとも手形割符を照らしあわせて、往来《ゆきき》を改める。
なかんずく。
五貫目以上の荷物は、たとえ官のものとはいえども、その品を改めるのが例定になっておりました。
山王わきの普請奉行所には、正副両造営奉行を取りまいて、昼夜を分かたず、評定やら、打ちあわせやらに、眼のまわるようないそがしさ。
書物役《かきものやく》が筆を耳にはさんで、広間をウロウロしながら、主水正の姿を探す。
「こうお山開きに手間どっては、お事始めは棟梁《とうりょう》だけ登山させて、式をあげるんでございましょうか」
他の一人が、誰にともなく大声に、
「もう組分けは、すみましたかな? すんだら一|遍《ぺん》勢ぞろいをして、顔を見おぼえておかんことにはつごうが悪いテ」
「御家老殿も、先刻そのようなことをおっしゃっておられた。いちおう田丸どのにたずねらるるがよい」
「田丸様はただいまどちらに?」
「サア、殿の御前じゃろう」
と、言いすてて、一人はいそがしそうに行ってしまう。
この、組分けと申しますのは……。
いろは[#「いろは」に傍点]の仮名文字で組を分けて大工二十五人に棟梁二人、諸職《しょしょく》五十人、雑役三十人、合わせて百七人を一組と定めて、これを印をつける。
塗師《ぬし》、錺《かざり》職人、磨師《みがきし》、石工《いしく》なども二十五人一組の定めであった。むろん一同は山へ上がったが最後、頭《かしら》だったものは町小屋、諸職人は下小屋《したこや》に寝とまりして、竣工《しゅんこう》まで下山を許さないのです。
もし工事中に、これらの者の家郷《かきょう》に不幸があ
前へ
次へ
全215ページ中162ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング