ればならぬ身が、そのかんじんの日光へ出発前に、みにくき死骸を眼にするようなことは、こりゃ玄心斎、さしひかえねばなるまいテ」
「しかしながら……」
「それに、暇がない。今夜|徹宵《てっしょう》別所殿と相談のうえ――」
 対馬守がそこまで言いかけたときいきなり、外の廊下に声がして、
「殿はこちらですか。主水正でござります。ただいま、首尾よく作阿弥を説きふせて、つれてまいりました。溜りに待たせてございますが」
「オオ田丸《たまる》か、ナニ、作阿弥が出馬したと。それはそれは御苦労。大成功じゃったナ」
 自分の用事はどこへかスッとんだかたちで、ポカンとしていた玄心斎へ、対馬守、何事か思いつかれたように、ニッコリすると同時に、
「爺、安心せえ……主水正、ちょっとここへはいって来い」

       五

 お蓮様には逃げられる。
 源三郎からは、果し状をつきつけられる。
 なんとかして、一寸のばしに逃れようと、立会人がなければと、笹の文を書き送ったのに対し。
 望みどおり丹波よりも、源三郎よりも、一段上の大剣士が、審判に立つから……という笹の返事が、折りかえし源三郎から来た。
 広い庭をへだてて、笹に結びつけた手紙が、二度も三度も棟と棟のあいだを往復したのち。
 提出した条件がいれられたとなると、追いつめられたも同然の峰丹波、もはやなんの口実もない。
 やがて、朝。
 庭の小広い片隅に、源三郎についてきている伊賀侍どもが、ワイワイ言いながら仕合場《しあいば》のしたくをしているのを、峰丹波、こっちの部屋で、どんな心で聞いたことか。
 ゆうべ一睡もしない血ばしった眼にこのほがらかな朝の訪れは、あまりに、残酷にさえ感じられる。
 実際、瞳が痛いほどの、キラキラとした金色の旭《あさひ》です。
 今となっても、丹波は、あきらめがつきかねる。
「あの伊賀の暴れん坊以上の腕ききが、そうたくさんあろうとは思われぬが、案に相違、簡単に承知して、判定人を出すと言うのだけれども、いったい何者であろうな」
 オロオロした眼で左右をかえりみても、誰ひとり返事をする者がありません。
「心あたりはないか」
 なにか、よけいな一人が、
「ことによったら事によるのでは……」
「なんだ、ことによったらことによるのでは――とは? なんのことだ」
「これは、ひょっとしますると、あの、隻眼隻腕の白い煙みたいな浪人が、飛
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