れるかもしれぬ」
「マア怖い!」
萩乃は団扇《うちわ》で顔を隠して、
「そんなことになったら、あたくしどういたしましょう。でも、やっぱりあなた様のほうが、お勝ちになるにきまっていますわ」
源三郎はこの萩乃を、いったいどう思っている? 愛しているのか、いないのか、誰にもさっぱりわかりません。
そのときです……。
雨戸の外の庭に、ポンポンと二つほど、手が鳴りました。
二
すぐ外の庭で、まるでかしわ手のように、手を打ち鳴らすのを聞いた源三郎は、ニヤッと笑って、
「拝んでやがらア」
と、つぎの間の一人へ、
「丹波から返事が来たぞ」
声に応じて、腰をかがめて縁側へ出て行った若侍が、しめ残してある雨戸から、庭前をうかがうと、すぐ下の沓《くつ》ぬぎの上に、緑の小枝が置いてあるのが、室内のもれ灯に浮かんで見える。
「なるほど、まいりました」
若侍は笑って、手をのばしてそれを拾い上げた。
明るいところへ持って来て見ると、葉のついた笹《ささ》である。
墨痕《すみあと》のにじんだ紙切れが、ゆわいつけてある。
源三郎は受け取って、
「今さら逃げを打つこともできまい。なんと言ってきたかな」
そう言いながら結び目をといてその二、三行の文字へ眼を走らせた伊賀の暴れん坊、
「馬鹿な!……真剣勝負に判定がいるものか。斬られて死ぬほうが負けにきまってるじゃアねえか」
「おお怖い!」
と、そばの萩乃が、両袖を抱くようにして顔をおおったのは、笑《え》みを含んでこう言いはなったときの源三郎の身辺に、一種言うべからざるすごみが、サーッと電光のように流れたからで。
源三郎づきの伊賀侍のうちから、首領株の数人が、這いだすように膝で畳をすって、つぎの間から現われた。源三郎は紙片を振りまわして、
「コレ、これを見るがよい。丹波め、すっかり臆病神にとりつかれたとみえて、立ちあいの判定がなければことわると申してまいった」
谷大八がのぞきこんで、
「フフン……お申しこしの儀は、真剣勝負とは申せ、柳生一刀流と不知火十方流のいわば他流仕合いにつき、相互の腕以上の判定者を立ちあわしむるを至当《しとう》とす。よって判定者として適当なる人なき場合には、せっかくながら御辞退申すのほかなく――ハッハッハッハ、峰丹波、今になって命が惜しいと見えるな。虫のよいことを申してまいったわイ」
横合
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