いて、チョビ安の両親をたずねるとあらば、これよりただちに、いまわれわれの手において集めつつある工匠《たくみ》の一人として、日光へお出むきくださる……承知いたした。チョビ安どのの父母は、拙者が主となってかならずともに発見するでござろう」
泰軒がそばから、
「それでは作阿弥殿、チョビ安のために、日光御出馬を決心なされたのか。ゆくもゆかぬも御辺の心まかせじゃ。この泰軒は、何ごとも言うべき筋合いではござらぬ」
これでチョビ安|兄《にい》ちゃんの両親が知れれば、お美夜ちゃんも、こんなうれしいことはない――といって、そのために、このたった一人のお爺ちゃんに別れるのは、死ぬよりつらいし……。
と泣き笑いのお美夜ちゃん、小さな手で、作爺さんの膝をゆすぶって、
「お爺ちゃん、チョビ安さんのためなら、あたし、どんなさびしい思いもがまんするわ。ね、日光へお馬を彫りに、行ってちょうだいね」
と、泣きくずれます。
チョビ安たるもの、だまっていられない。
「おウ作爺さん、それはおめえ、とんだ心得ちげえだぜ。そんなにまで、おいらのことを思ってくれるのはありがてえが、いまおめえがいなくなったら、お美夜ちゃんにゃア一人の身寄りもなくなるじゃアねえか、おいらの父《ちゃん》やお母《ふくろ》のことなんか、どうでもいいから、その日光の話とやらを、ポンと蹴っておくれよ。ナア、作爺ちゃん」
と左右から、チョビ安とお美夜ちゃんにすがられた作阿弥、同時に二人の手を振りほどいて、
「田丸殿、迎えの駕籠が、待たせてあるとおおせられたな」
スックと起ち上がった。
「泰軒どの、何やかやと、長いあいだ親身も及ばぬお世話にあいなった。御迷惑ついでに、それでは、この二人の面倒をお願いいたしまするぞ。泰軒先生」
「これはまた、気の早い。もう御出発か。イヤ、心得た。あとのことは御心配なく……田丸殿さえ言葉をたがえねば、安の両親はおっつけ知れるであろうし、お美夜ちゃんは、及ばずながらこの泰軒が娘と思って――」
七
心境の変化は、突如として起こることがある。
その例の一つが、司馬道場のお蓮様。
もっとも。
近ごろお蓮様が、何やら身のはかなさを感じ、心細さにうちのめされていたことは、事実だ。
それはそうでしょう。
あくまで排斥しようとした源三郎に、断《た》つに断《た》てない愛を感じたのですもの。
前へ
次へ
全215ページ中134ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング