とえ》に、算盤絞《そろばんしぼ》りの三尺を、ぐっと締め、お尻《しり》の上にチョッキリ結んで、手拭を吉原かぶり、わざと身幅《みはば》の狭いしたてですから、胸がはだけて、真新しい白木綿《もめん》の腹巻が、キリッと光って見えようというもの。
 工面《くめん》のいいときのあのつづみの与の公が、よくこんな服装《なり》をして、駒形から浅草のあたりをおしまわっていたものですが、今のチョビ安、まるであの与吉の、人形みたようだ。
 それが、意外な恰好に鉦《かね》を持って、拍子おもしろくチンチンたたきながら、
「エイお立ちあいの衆! 焼野《やけの》のきぎす夜の鶴、子を思う親の情に変りはねえが、親を思う子の情は、親のねえ子ではじめてわかるものだ。孝行をしたい時分に親はなし、石に蒲団は着せられずとか、昔からいろいろ言ってあるが、こりゃあ親が死んでしまってから、はじめて親の恩を知る心を言ったもので、おいらなんざア自慢じゃアねえが、生まれ落ちるとから、親の面《つら》ッてものはおがんだことがねえんだ。ここにいるこのお美夜《みや》ちゃんも、お母《っか》さんがどこにいるかわからないんだよ。おいらの両親《ふたおや》は、伊賀国柳生の者だとばっかり、皆目手がかりがねえんだが、もしお立ちあいの中に、心あたりのある人があったら、ちょいと知らせておくんなせエ。いい功徳《くどく》になるぜ。サア、夏のことだ、前口上《まえこうじょう》が長《なげ》えと、芸が腐らあ。ハッ、お美夜太夫! お美夜ちゃん! とくらア。ヘッ、のんきなしょうべえだネ」
「あいよ」
 そばに立っているお美夜ちゃんが、ニッコリ答える。この暑いのに振袖で、帯を猫じゃらしに結び、唐人髷《とうじんまげ》に金《きん》の前差《まえさ》しをピラピラさせたお美夜ちゃん、かあいい顔を真っ赤にさせて、いっぱいの汗だ。
「ようよう! 夫婦《めおと》の雛形《ひながた》!」
「待ってました! 手鍋《てなべ》さげてもの意気《いき》で、ひとつ願いやすぜ」
 いろんな声がかかる。

       二

 芸といっても、たったひとつを売りもの。
 チョビ安《やす》の「辻のお地蔵さん」に合わせて、お美夜《みや》ちゃんがいろいろと父母《ふぼ》を恋《こ》うる所作事をして見せるんです。
 振付けは言わずと知れた、藤間《ふじま》チョビ安。
「むこうの辻のお地蔵さん」で、お美夜ちゃんは首をかし
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