んりょじん》


       一

「アッ! 柳生対馬守とあらア」
 本陣の前を通りながら、与吉がさきに見つけたのだ。
 出たとこ勝負の二人なんです。与吉は、儀作からうばったこの壺をぶらさげて、ほどあいを見はからって江戸へ帰ろうという心。
 江戸では、峰の殿様が待っていらっしゃる。
 が、しかし、これからすぐ江戸へ……とお藤姐御に言ってみたところで、おいソレと引っかえす櫛巻のお藤ではない。といって壺をかついで一人でノコノコ江戸入りするのは、危険千番。
 さいわいここで、お藤というものを発見したのだから、二人連れの旅芸人と見せかけて、でたらめの唄でもうたいながら、せめて箱根の手前ぐらいまで行ったのち、お藤のお天気のよいときに、江戸へ戻ろうとすすめても、遅くはない。
 こういうはらだから、与の公、手拭を吉原かぶりに、聞きおぼえの新内などうなりながら、今宵さしかかったのがこの程ケ谷の宿だ。
 伊賀からのぼって来た対馬守の一行が、ここに泊まっていると知った与吉、まさか、あの、神奈川宿でいっぱい食わした若党儀作が、自分より先まわりして、もうこのお宿にいようとは、夢にも思いません……あいつは、壺を取られて面目なく、泣くなく、江戸に帰りやがったに相違ねえ。
 一つ、ひやかしてやれ。
 突拍子もない調子を張りあげて、
「さわるまいぞエ手を出しゃ痛い、伊賀の暴れん坊と栗のいが[#「いが」に傍点]」
 聞こえよがしに歌ったものです。
「およしなさいよ、お前さん。伊賀侍をおこらせると、あとのたたりがこわいことは、誰よりも与の公、お前がいちばん知ってるはずじゃアないか」
 お藤がたしなめたが……。
 すでに遅かった、そのときは、
「コレ、そこへまいる両人、ちょっと待て」
「ヘイ、あっしどもで」
 立ちどまった与吉が、ヒョイと見ると、肩をいからした頑丈な侍が、広い本陣の門口から出て来ようとしている。
 お藤はソッと与吉のひじをついて、
「ソレ、ごらん、おまえさん。だから言わないこっちゃアない。藪をつついて蛇を出したじゃあないか」
 侍は威猛高に、ツカツカと寄ってきて、
「コラッ! 栗のいが[#「いが」に傍点]がいかがいたしたと?」
 その大声に、供溜りにいたらしい若侍が五、六人、バラバラッととびだしてきたが。
 それよりも!
 与吉のおどろいたことには――。
 あがり框《がまち》にせのびを
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