気をうしなった峰丹波は。
自室《へや》へかつぎこまれるとまもなく、意識をとり戻したが、おのが不覚をふかく恥じるとともに、なにか考えるところがあるかして、駈けつけたお蓮様をはじめ介抱の弟子たちへ、
「いや、なに、面目次第もござらぬ。ちと夜風に当たりかたがたお庭の見まわりをいたそうと存じて、うら木戸へさしかかったところ、何やら魔のごときものが現われしゆえ、刀をふるって払わんとしたるも、その時すでに、霧のごとき毒気を吹きかけられてあの始末……イヤ、丹波、諸君に会わす顔もござらぬ」
と夢のような話をして、ごまかしてしまったが――心中では、かの柳生源三郎がどうして植木屋になぞ化けて当屋敷へ? と、恐ろしい疑問はいっそう拡大してゆくばかり……。
しかも、素手で、一合も交じえずして自分を倒したあの剣気、迫力!――そう思うと丹波は、乗りかけた船とはいえ、この容易ならぬ敵を向うにまわして、道場横領の策謀に踏み出したものだと、いまさらのごとく、内心の恐怖は木の葉のように、かれの巨体をふるわせてやまなかったのである。
今……。
お蓮さまはこの丹波の話を、萩乃の部屋へ持って来て、
「ほんとに、白い着
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