家に生まれたってだけのことで、なんの働きもねえ野郎が、大威張りでかってな真似をしてやがる。下を見りゃあ……下はねえや。下は、あたいや、羅宇屋《らうや》の作爺《さくじい》さんや、お美夜《みや》ちゃんがとまりだい。わるいこともしたくなろうじゃアねえか」
「作爺とは、何ものか」
「竜泉寺《りゅうせんじ》のとんがり長屋で、あたいの隣家《となり》にいる人だよ」
「お美夜と申すは?」
「作爺さんのむすめで、あたいの情婦だよ」

       二

「情婦だと?」
 さすがの左膳も、笑いだして、
「そのお美夜ちゃんてえのは、いくつだ?」
「あたいと同い年だよ。ううん、ひとつ下かも知れない」
「あきれけえった小僧だな」
「なぜ? 人間自然の道じゃアねえか」
 今度は左膳、ニコリともしないで、
「おめえ、親アねえか」
 ちょっと淋しそうに、くちびるを噛んだチョビ安は、すぐ横をむいて、はきだすように、
「自慢じゃアねえが、ねえや、そんなもの」
「といって、木の股から生まれたわけでもあるまい」
「コウ、お侍さん、理に合わねえこたア言いっこなしにしようじゃねえか。きまってらあな。そりゃあ、あたいだってね、おふ
前へ 次へ
全542ページ中69ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング