式を見せた供ぞろい美々《びび》しく、大手《おおて》から下馬先と、ぞくぞく登城をする。
御本丸。柳の間は、たちまち、長袴に裃《かみしも》でいっぱい、白髪、若いの、肥ったの、痩せたの……。
内藤豊後守《ないとうぶんごのかみ》は、狆《ちん》のような顔をキョトキョトさせ、小笠原左衛門佐《おがさわらさえもんのすけ》は、腹でも痛いのか、渋い面だ。しきりに咳をする松平三河守、癖でやたらに爪をかんでいるのが、彦根侯《ひこねこう》、井伊掃部頭《いいかもんのかみ》――子孫が桜田の雪に首を落とそうなどとは、ゆめにも知らないで。
正面、御簾《みす》をたらした吉宗公のお座席のまえに、三宝にのせた白羽の矢が一本、飾ってある。
あの矢が誰に落ちるかと、一同、安きこころもない。
「イヤどうも、百姓一統不景気で――」
「拙者の藩などは、わらじに塩をつけて食っておるありさま、窮状、御同情にあずかりたい」
殿様連、ここを先途《せんど》と貧乏くらべだ。
当てられてはたまらないから、いかに貧的《ひんてき》な顔をしようかと、苦心|惨澹《さんたん》。
「あいや、伊達《だて》侯……先刻よりお見受けするところ、御貴殿、首を
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