そいでゆく。
 みょうな顔で挨拶を返した鈴川源十郎、眼は、遠ざかる栄三郎の腰に吸われていた。
 はなしに聞いた陣太刀づくりの脇差に、九刻《ここのつ》さがりの陽ざしが躍っている。
 孤独を訴える坤竜丸の気魂《きこん》であろうか。栄三郎のうしろ姿には一|抹《まつ》のさびしさが蚊ばしらのように立ち迷って見えた。
「よし! 五十両がふい[#「ふい」に傍点]になった以上は、あくまでもあの男をつけ狙って、丹下のやつをたきつけ、おもしろい芝居を見てやろう。乾雲と、坤竜、刀が刀を呼ぶと言ったな。それにしてもあの若造は、たしかに鳥越の――」
 源十郎が小首をひねったとき、先をゆく栄三郎がまた振り返って頭をさげた。
 ふふふ、馬鹿め! とほくそ[#「ほくそ」に傍点]笑《え》んだ源十郎、ていねいにじぎをしていると、ぽんと肩をたたく者があって、
「ほほほ、いやですよ殿様。狐|憑《つ》きじゃああるまいし、なんですねえ、ひとりでおじぎ[#「おじぎ」に傍点]なんかして……」
 という櫛まきお藤の声。気がつくと、いつのまにか与吉もそばに立っているのだった。
 すんでのことで栄三郎に追いつかれて、武蔵太郎を浴びそうにな
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